10月27日は衆議院選挙の投開票日です。多くの政党が公約に「賃上げ」を掲げていますが、働く女性たちを悩ませる“壁”も立ちふさがっています。

■「働く日数少なくなる」…雇う側も従業員の7割超がパートの地域密着スーパー

 愛知県瀬戸市の「新鮮市場 いせや」。

【動画で見る】衆院選公約で多い賃上げに“年収の壁” 給料が増えたら「働ける日数が少なくなる」雇う側にとっても悩みの種に

地元出身、将棋の藤井聡太七冠がタイトルを獲得するたびにセールを開催する地域密着のスーパーで、野菜などの食材の新鮮さがウリです。

従業員36人のうち、パートが26人。人手不足や世の中の賃上げの流れに対応しようと少しずつ時給をアップし、いまは時給1080円です。

この賃上げ、働く人たちは「大歓迎」かと思ったのですが、パートの50歳女性、田口幸子さん(仮名)は…。

いせやのパート 田口幸子さん(仮名 50):
「賃上げがあるじゃないですか、それで給料があがって、働ける日数が少なくなってくるんですね。扶養に入っていて、これからも扶養内でやっていきたいと思っているので」

多くのパートタイマーが意識するのが「年収の壁」です。総菜コーナー担当の田口さんの場合、年収が150万円までは「配偶者特別控除」が満額適用され、自営業の夫が支払う税金が減ります。

しかし150万円を超えると、税金が増えていきます。

また、配偶者が会社員のケースでは、年収130万円の「壁」を超えると、扶養から外れ、自分で社会保険料を支払う必要が出てきます。これによって、働く時間を伸ばして収入を増やしても、手取りが減ってしまうことになります。

「いせや」でも、3分の1のパート店員がこの「年収の壁」を超えないよう、働く時間を調整しているといいます。

2人の子供を育てながら週に6日、4-5時間のパートに入る田口さんは、物価の高騰などもあって働く時間を増やしたい気持ちもありますが、税金の額が増える以上に収入を増やす働き方には抵抗があるようです。

田口さん(仮名):
「税金が上がっちゃうし、もし働くとなれば、もっと働かないといけない。家庭のこともきちんとやりたいし、お給料もきちんともらいたい。もっと年収の壁自体を上げて頂くと、やっぱり助かるかなとは思いますね」

「年収の壁」は、働いてもらう側にとっても悩みの種となっています。

いせやの代表 福丸明男さん:
「もっと働きたいけど年収の壁があるので『(パートからは)あとどれだけ働ける?』と。そういう声が年度の境になると、『私はあとどれだけ働けますか』と。1人退職したらけっこう厳しくなりますね。現状働いているパートの時間を延ばして、その分を補えるのかといったら、そこでまた年収の壁がひっかかってくる、そこがなかなか難しい」

■既婚女性の対象の調査で「働く時間を減らした人」は“半分以上”

 名古屋の街でも、「年収の壁」について改善を求める声が聞かれました。

女子大学生(21):
「11月とか12月ぐらいに(親から)大丈夫?超えない?って聞かれて自分で調節するようにしています」

女性(40代):
「扶養から超えちゃいそうなので、いま働くのを制限している。時給とかも上がったことによって、働く時間が少なくなってしまったので。できれば何も考えず働けたらいいんですけど」

野村総合研究所がパートなどで働く既婚の女性を対象に行った調査では、「年収の壁」を意識して働く時間を調整している人は61.5%に上ります。

また時給が上がった人の半数が「働く時間を減らした」と答えていて、幅広い業種で人手不足が広がるなか、「年収の壁」のせいで賃上げが労働時間の減少をもたらすという悩ましい状況になっていることがわかります。

■時給上げたトヨタの取引先工場…国に求めることは

 スーパーに続いて訪ねたのは、愛知県大口町の工場です。

5代目の坂井聡佑さん(33)が社長を務める「巴製作所」はトヨタの取引先の1つで、ランドクルーザーなどに使われる車載レンチなどの工具を製造しています。

鉄などの原材料費が高騰していますが、坂井社長は愛知県の最低賃金の引き上げに合わせて、ベースとなる時給を50円アップし1080円に。

巴製作所の社長 坂井聡佑さん:
「年収の壁が変わらない限り、単価が上がると調整して労働時間が短くなってしまうので、人によって意識しているので、今後見直しが必要なのかなと」

Q年収の壁がなかったらと思ったことは
扶養にはいるパート店員の女性(59):
「それは若いころから思っています。扶養に入っているから「とにかく103万円で抑えてくれよ」と何十年も言われている」

現在国は、年収の壁を意識せずに働いてもらうため従業員に手当てを出すなどした企業に補助金を出すといった対策をしていますが、坂井社長は中小企業にさらに手厚い支援をしてほしいと訴えます。

Qまもなく選挙 国に希望することは
坂井さん:
「中小企業で今働く方が7割ぐらいだと思うんですけど、中小企業も賃上げは絶対しなければならないと思っています。一方で大手に比べて業績の戻りが遅れていたりしますので、例えば設備投資の保証をもっと拡充していただくとか、していただけると賃上げの方に会社の原資を回すことができる」

■各政党が選挙公約で掲げる「年収の壁対策」

 年収の壁については多くの政党が公約で触れています。

自民党は女性活躍の政策のなかに年収の壁の対応を盛り込んでいて、立憲民主党は「年収の壁を給付で埋める制度をつくる」としています。

日本維新の会は「年収の壁撤廃に向けた抜本的制度改革」を掲げ、公明党は国の「年収の壁支援パッケージ」を着実に実行するとしています。

国民民主党は働き方に中立な社会保障への転換を踏まえた「第3号被保険者制度」などの見直しを掲げています。

共産党とれいわ新選組の公約は「年収の壁」について直接触れていませんが、共産は国民健康保険料の抜本的引き下げ、れいわも社会保険料を国が補助することなどを盛り込んでいます。

2024年10月24日放送