花火大会にも“存続の危機”…「祭りとお金」物価や人件費の高騰が夏の風物詩を直撃 “有料化”の動きも
長年続く日本の祭りに今、時代の波が押し寄せている。物価高騰で必要な「お金」が増加、高齢化や過疎化も進む中、伝統をつなぐための試行錯誤が続いている。
■60年続く花火大会が「存続の危機」
8月に開かれた三重県津市の「久居花火大会」。夏の夜空を花火が鮮やかに彩り、頭上から降り注いでくるような迫力が楽しめる。
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60年以上続いてきたこの花火大会も、2024年は存続の危機を迎えていた。
地元住民:
「ギリギリというのは知っていた」
別の住民:
「なかなかお金が集まらなくて…」
長く親しまれてきた風物詩に「お金」の問題が重くのしかかっている。
津市久居総合支所 高橋佑太さん:
「警備にかかる人件費や会場設営もそうですし、単純に費用の高騰という所が大きいのかなと思います」
毎年5万5千人ほどが楽しむ「久居花火大会」の開催費用のうち、会場設営費が最も大きな割合を占めている。
35基設置する仮設トイレや音響設備、会場周辺の看板などの設置費用は5年前より280万円ほど高いおよそ670万円となっている。
雑踏事故などの防止のため警備員は84人配置した。人員は5年前の半分ほどに抑えているが、人件費の高騰などで費用は半分とはならず、5年前のおよそ320万円に対し、2024年はおよそ230万円必要となった。このほかシャトルバスの運行費用や、ごみの分別や回収にかかる費用など、あらゆるものが値上がりした。
さらに祭りの主役、花火の打ち上げ費用も高騰している。
高木煙火の加藤峰之さん:
「今年、特に花火を打ち上げるための火薬が3割値上がってしまった。ウクライナ戦争や円安の影響も入ってきたんでしょうね。それで花火の単価を上げざるを得ない状況になっています」
原料の多くは輸入品で、円安の影響を強く受けるうえ、ウクライナ侵攻で火薬の供給がひっ迫していることも価格高騰の一因となっている。祭りの実行委員会はこのままでは大会の継続は困難と判断し、「900万円の協賛金が必要」と広く呼びかけ、何とか開催にこぎつけた。
花火大会に協賛した 山川博史さん:
「『(費用が)ちょっと足りないから上がらないかもしれない』と話があって、やばいぞと、だから知っているお店さんに声かけさせてもらった。やっぱり小さい時から花火が上がっていたので、それをずっと絶やしたくないなという気持ちがあって、今までずっと寄付続けている」
花火大会に協賛した 前川欣一郎さん:
「やっぱり小さな町ですので、みんなで色んなものを共有出来たらいいかなという、皆さんに久居を知って頂きたいという地元愛ですね」
■広がる祭りの“有料化” 一方で物議も
伝統をつなぐ費用をまかなうため、祭りの「有料化」の動きが広がっている。東海3県でも岡崎市や岐阜市などの花火大会で有料観覧席を販売し、帝国データバンクによると全国の主要な大会の7割で、有料席が導入されているという。
しかし、滋賀県大津市の花火大会では有料観覧以外の客は来場しないように呼びかけ、目隠しまで設けたことで物議をかもすなど、なかなか一筋縄ではいかない。
花火大会だけではない。日本三大祭りの一つ、京都の祇園祭では2023年に続きプレミアム観覧席を企画し、2024年は最高20万円のプランが用意された。
外国人観光客など富裕層をターゲットに、祭りを間近で見ながらお酒やおばんざいを楽しめる特等席を設けることで、伝統行事を継承する収益源にする狙いだったが、これに対し、祭りを執り行う八坂神社の宮司が苦言を呈した。
八坂神社 野村明義宮司:
「神事にお酒はつきものでありますけれども、それが神様を感じ取っていただけるありがたいお酒ならいいが、ショーを見るような形でのお酒のふるまいはいかがなものか」
こうした意見もあり、一転、酒や食事の提供は取りやめられた。
■高齢化や過疎化で祭りの資金集めも難航
東京には全国の祭りの運営サポートをビジネスにしている会社がある。加藤優子代表が立ち上げた「オマツリジャパン」は有料観覧席の企画のほか、会場で企業の広告を流したり、PRブースを設けたりして資金の確保につなげている。
オマツリジャパン 加藤優子さん:
「例えば商店街ですと昔は個人の商店が多かったので、それぞれが出し合えたけれども、いまチェーン店ばかりになってしまって、なかなか本社の方からお金が出ないとか、あとは高齢化によって昔みたいに自分の足で1件1件回ってお金を集めるということができなくなってきたとか、そういったお話も聞いておりまして」
お金の問題は物価高騰だけでなく、少子高齢化をはじめとする様々な地域社会の問題とつながっている。祭りのプロは、伝統をつなげていくためには「変化」も必要だと訴える。
オマツリジャパン 加藤優子さん:
「お祭りに対して皆さんが思う価値っていうのは、人それぞれかなという風に思っております。ある人はお祭りに経済的価値を感じるかもしれないですし、ある人はお祭りに対して、『高揚感』だったりとか『楽しみ』を思う人もいますし、お祭りの時期になったら、家族がみんな帰ってきて集まって、絆を感じる機会にもなるかもしれないですし、今までと同じやり方を続けていくのではなくて、あきらめずに色んな方法を試してみる、お祭りを残していくというのが大事になってくるのかなと思います」
■資金難で…祭りを「フェス」に模様替え
祭りを守るために、あえて大きな変化に挑戦した町がある。岐阜県笠松町でおよそ150年の歴史がある「笠松川まつり」は、川面にたくさんの灯篭を浮かべる「万灯流し」と、打ち上げ花火が堪能できるお盆の風物詩として継承されてきた。
しかし、コロナ明けの2023年、町からの補助金1200万円では復活した人手に対応する警備費を賄えないなどとして中止に追い込まれた。
しかし、消えた祭りを惜しむ声は大きく、2024年は思い切ったリニューアルをして、復活させることになった。
笠松町 古田町長:
「公費・税金で花火大会を運営していたと、それが経費がかさむことによって投入するのもそろそろ限界を超えてしまったなというのが正直なところです。これまでにない目新しさが演出できるんじゃないかと」
8月に行われた「ナイトバブルフェス」は、テンポのいい音楽にあわせて光に照らされたシャボン玉が夜空を舞うイベントで、ダンスに合わせて飛び出すシャボン玉に、子供たちは手をのばしてはしゃいでいた。
参加した子供:
「虹みたいな色だったから、めっちゃきれいだった」
参加した人:
「新しい試みでいいなとは思いました」
歓迎する声の一方で、複雑な思いを抱く住民もいる。
参加した人:
「花火だったらもっとどこからでも音が聞けるし見えるので、花火だったらもっと楽しいかなって気持ちもあります」
参加した人:
「時代の流れというか、これはこれでいいと思いますけど」
広い範囲の警備が不要になったことなどで、イベントの費用は以前の4分の1ほどに減らすことができた。町は来年に向けて改めて内容を検討するという。
笠松町 古田町長:
「やめるのは簡単かもしれませんが、歯を食いしばって続けていく、これも持続可能な地域社会づくりという意味ではとても重要なことだと考えています。新しいものはどんどん取り入れて改めるところは改めていく、ブラッシュアップを繰り返していきながら、多くの人たちに来てよかったな、また来たいなって思って頂けるような催事にしたいと思っています」
150年の祭りの歴史をつなぐため…「シャボン玉フェス」は新しい伝統になっていくのだろうか。
2024年8月27日放送