全国で相次いでいる『闇バイト』による事件では、逮捕者が出ているにも関わらず、次々と犯罪に手を染める者が後を絶たない。特殊詐欺で「受け子」を繰り返し逮捕された16歳の少年に、その実態を聞いた。また、現役の捜査幹部が取材に応じ、100人以上使い捨てにしたという指示役の手口を語った。

■「受け子」繰り返し逮捕…闇バイトに手を染めた16歳の少年

 2024年12月16日、16歳の少年が取材に応じた。ジャージの袖で、手のタトゥーを隠しながら話す彼はいま、愛知県豊田市の愛知少年院にいる。

少年(16):
「指示役の人と電話して、『どこどこ事務所の何々って名乗ってください』って言われて、ピンポンして。本当そのままの言葉を言ったら、おばあちゃんが封筒すぐに渡してきて、それで終わりです。140万です」

【動画で見る】「闇バイト応募者は“逮捕される要員”」公式LINE悪用し100人以上引きずり込む 明かされた使い捨ての実態

少年は、特殊詐欺の「受け子」を繰り返し、5回目で逮捕された。罪を犯した入り口は、本名で登録していた「インスタグラム」だった。

少年(16):
「バイトをやめるぜみたいな、そんな感じの(インスタの)ストーリーを上げて、それの返信で来たんですよ。『短時間でお金楽に稼げる仕事あります』って来て。ほんとですかって。やっぱりお金の大きさなんで」

手にした報酬は、1回6万円で合計24万円。彼も、「闇バイト」に手を染めた1人だ。

2024年、「闇バイト」による事件が多く発生した。初対面の者同士が、顔も知らない人物の指示で家に押し入り、金を奪い、時に人を傷付け、殺す。

その目的は、本当に得られるかもわからない「高額報酬」だ。

12月17日には、「クリスマスに遊ぶ金が必要だった」と闇バイトの特殊詐欺に手を染めた少年が、逮捕される事件もあった。少年はまだ、中学3年生の15歳だった。

■「いい人やなと思っちゃって」指示役につけ込まれ利用される少年たち

 愛知少年院にいる少年(16)も、指示役とは一度も会ったことがなかったが、現場へ向かう道中や、だまし取った現金を持ち運ぶ間、電話を繋いだまま雑談を交わしたという。

少年(16):
「話題が薬物やバイクとかそういう話だから、気が合うじゃないですか。盛り上がったりとかしてたから、信用していいかなとか思って」

Q指示役に名前はあった?

少年(16):
「ソンゴクウとかオータニショーヘーとか。ああいう人たちってめっちゃ丁寧な喋り方で話もなんかうまいんで、俺はいい人やなと思っちゃって」

Q恐怖はなかった?

少年(16):
「そんなにちょっかいかけるとか、指示役側からなんかするっていうのはリスクがある話じゃないですか、指示役側が。そんなことをしてこないと思うから大丈夫だと思う」

指示役には、顔・名前・年齢などの個人情報を握られているが、自身の置かれた状況には、当時も今も、どこか“他人事”だ。

愛知少年院 立石健一郎次長:
「近視眼的なものの捉え方であったり、自分にネガティブに及んでくることに関しては、耳をふさいでしまう。結局、自分の身の回りにそういうことに苛まれたことがないってなると、なぜかいつの間にか、“そういうことは起きない”っていうような考え方に陥りがちな部分が、非常にリスクが大きいかなと感じる」

自分の身に何が起きるのか、自分が何をさせられているのか。「即日即金」「ホワイト案件」という言葉の裏に隠れる『闇』。

闇に目を向けずにつけこまれ、犯罪に利用される人が後を絶たない。

■新システム導入で“9倍”に…愛知県警がAI使って対策

 こうした中、愛知県警が「闇バイトの芽」を地道に潰そうとしている。

X(旧Twitter)に投稿されている「裏バイト」「日当15万円」といった闇バイト募集に用いられるワードを、AIが自動で探し出すシステムを導入した。

疑いのある投稿に対し、「SNSで楽に稼げるバイトって大丈夫?」というメッセージをリプライし、ユーザーが安易に応募しないよう促す。

対象のワードは、その時々で変更することが可能だ。

以前は3人ほどの警察官による「手作業」だったため、警告が出せるのは月に150件ほどだったが、2024年10月から導入したシステムで、件数は9倍に増えたという。

愛知県警生活安全総務課の鈴木晶子巡査部長:
「発端となる場所を集中的に攻撃じゃないですけど、被害が生まれないように対策を取っている」

■LINEの「公式アカウント」を悪用…100人以上を犯罪に加担させたやり口

 闇バイトへの入り口は「X」などのSNS上だけにとどまらず、次から次に「志望者」が吸い込まれているのが現状だ。

その実態について、愛知県警の「サイバー犯罪対策課」の幹部が取材に応じた。サイバー犯罪対策課では、捜査員53人が、闇バイトなどのネットを悪用する組織的な犯罪を捜査している。

松本淳平課長が挙げたのは、愛知県警が実際に検挙した“チラシを配る闇バイト”の事件についてだ。

愛知県警サイバー犯罪対策課の松本淳平課長:
「愛知県内で、アパートの郵便受けにチラシが配布されました。チラシを配るということをやると、多数の人に目撃されてしまいます。当然警察としてはすぐ行き着くことができました」

事件は、アパートの郵便受けに、「家賃の支払いがオンラインになった」というウソのチラシを配り、騙された住人に現金を振り込ませる詐欺だ。

チラシを配るという、いたって足のつきやすい役割の募集に、「LINEの公式アカウント」が悪用されたという。アカウント名は『ズボラ副業』で、運営していたのは、25歳の男だった。

愛知県警サイバー犯罪対策課の松本淳平課長:
「お金に困っている人を応募させてこの犯罪に加担させる。“ズボラ副業”(というアカウント)は、まさに“ズボラな人でも片手間で副業できる”という趣旨ですから、まさに効率的に金を稼ぎたいと思う人の心に付け込むような文言」

「公式」アカウントを使うことで、“正規の仕事”、つまり“法には触れない”と感じる心理を悪用していたとみられている。

男は複数の公式アカウントを操り、詐欺行為やマネーロンダリングの“実働部隊”として、何人もの人を引きずり込んだ。男に加担した人の数は、100人以上に上るという。

愛知県警サイバー犯罪対策課の松本淳平課長:
「犯罪組織の上位被疑者たちは、末端の闇バイト応募者が“いくら捕まっても全く問題ない”というぐらいにしか思っていない。使い捨てにする。言い換えると、“逮捕される要員”のような形で使われているわけですから、最も危険な仕事ということになる」

結局、自らが“使い捨て”にした者たちへの捜査によって、男も逮捕された。

拘留中の男に取材を申し込んだところ、手紙が返ってきた。

男(手紙):
「謝礼金は頂けるのでしょうか。その額次第で検討したいと思います」

男は、どこまでも楽に、金を得ようとしていた。

■新たな捜査手法『仮装身分捜査』 警察も期待寄せる「誰も応募しなくなれば…」

 2024年、犯罪の種類も、募集の方法も多様化した「闇バイト」。年の瀬も差し迫った11月17日、政府が「緊急対策」を決定した。

石破茂首相:
「実行犯はもちろんのこと、事件の首謀者まで絶対に検挙するため『仮装身分捜査』も活用した徹底的な取り締まりを行います。断固たる決意のもとスピード感をもって、各種対策に取り組んでいただきます」

その1つが、闇バイト対策の切り札ともされる「仮装身分捜査」で、捜査員が“架空の身分証”を使って自ら闇バイトに応募し、犯罪グループに接触するという、新たな捜査手法だ。

これまでは「身分証の偽造」が違法行為にあたる可能性があるとされてきたが、警察庁は『正当な業務による行為は罰しない』という刑法の規定をとり、『正当な行為として認められる』と位置づけている。

しかし、実際の捜査でどこまで有効かは不透明だ。

愛知県警サイバー犯罪対策課の松本淳平課長:
「誰も応募しなくなれば、何か犯罪を企画しても実行できず、企画倒れに終わるということにつながる。犯罪そのものが減っていくのではないか」

2024年は皮肉にも、闇バイトを意味する言葉が「新語・流行語」にもなった。2025年の今ごろは、「闇バイト」が時代遅れの「死語」となり、撲滅されていることを願う。

2024年12月20日放送