全国各地の大学入試で女子生徒だけを対象とした、いわゆる「女子枠」を設けるケースが増えている。主には理系の学部で女子生徒を増やすことが狙いだが、全体の人数としてはまだまだ少なく、その後の課題もある。

■2025年度は一気に倍増…増える理工系学部の「女子枠設置」

 三重県津市の三重大学工学部。講義室を見てみると、男子学生ばかりで、65人いる中で女子学生はたった3人だ。

【動画で見る】女子学生「完全に平等は50年後か…」増える理工系学部の『女子枠』企業の採用につながり好循環も課題の1つは“大学入学後のその先”

この状況を変えようと始めたのが、入学試験における「女子枠」だ。三重大学ではこの4月から、工学部に新設する「電子情報工学コース」の学校推薦入試5人について、女子のみが出願できる女子枠とした。

三重大学工学研究科の三宅秀人教授:
「工学部に行って、女性が少ないというのが一番のバリアになっていると思うんですよね。女性が2割3割、あるいは5割近くいたら避ける必要は何もないと思います」

文科省の調査(2024年度文科省学校基本調査)によると、大学の理工系学部に進学した人のうち、女性の割合は20.65%で、OECD加盟国の平均と比べても約10%低く、最下位だ(山田進太郎D&I財団資料より)。

こうした中、旧東京工業大学(現在の東京科学大学)や京都大学など、いま、理工系学部での大学入試女子枠設置の動きが全国で加速している。

国公立大学ではこれまでは14大学だったが、2025年度の春は30大学と、1年で倍増した。

■国立大で初めて“女子枠”を設けた名古屋工業大学のいま

 名古屋市昭和区にある名古屋工業大学は、今から30年以上前に、国立大学で初めて女子枠を設けた。

電気・機械工学科4年の佐藤さん(仮名・22)は、女子枠の制度を利用して入学した1人だ。高校3年生の夏ごろ、母親から名古屋工業大学の女子推薦入試のことを聞き、挑戦を決めた。

佐藤さん:
「それまでは保健学科とか別のところを目指していたんですけど(母親から女子枠が)あるって聞いて、じゃあ1回ちょっとやってみようかなと思って工学部を調べていって」

Q.女子枠がなくても名工大に入っていましたか
佐藤さん:
「入ってないと思います。(選ぶ)きっかけにはなりますね」

女子枠の存在が、工学部を選ぶきっかけになったという。制度について当事者は、そして同級生の男子学生はどう考えているのか。

男子学生A:
「入ってからはあまり何も思わないかなと。そんな制度あったんやみたいな」

佐藤さん:
「差別とかないもんね。女子枠で入った子と一般の子と」

男子学生A:
「わからないしね。誰がどの入試方式で入ってきたかなんて」

男子学生B:
「気にしないもんね」

男子学生A:
「それで(一般入試の)全体の枠がとられるなら、受験生の身からすると嫌かなと思いますね」

男子学生B:
「一番根本的な問題は、日本社会全体で『女性は文系だよね』とバイアスがかかっている。すぐに結果が出る大学側のアプローチとしては、女子枠の設置が一番効率がいいかなと」

佐藤さん:
「完全に平等ってなるのは、あと100年とか50年先ぐらいじゃないと無理かなとは思いますね」

男子学生A:
「どこをゴールとしているかかな。科学者がもっと欲しいなら、結局大学じゃなくて大学院まで行って、さらにドクター(博士課程)まで行ってっていう、そういう意味での援助とかをもっとしないといけないんじゃないかなと」

名古屋工業大学の電気・機械工学科では、制度導入前は、女子は数%程度だったが、最近では15%を超えることもあるようになった。

名工大が、全国の国立大学に先駆けて女子枠を導入したのには、理由があった。

名古屋工業大学の井門康司副学長:
「やはり機械関係の設計技術、あるいは開発の部門のところで『女性技術者を採りたいけど採れない』と、就職担当の先生のところに要望が随分きていたようです。機械工学の分野、これは日本の技術開発も含めてですが、男女半々本来はいるはずなのに、女性がほとんどいないという分野、これはやっぱり発展を考えると非常にいびつになる」

トヨタ自動車など自動車産業を始め、愛知県にはものづくりに携わるメーカーが集積しているが、そうした県内企業からの要望も、女子枠導入の一因になった。

■女子学生増が採用増に期待も1つの課題は「大学院進学者の少なさ」

 機械・自動車部品を製造する愛知県刈谷市のジェイテクトで働く平田萌々子さん(34)は7年前、大学院の理学研究科を卒業して入社した。

ジェイテクトの平田萌々子さん:
「なかなか基礎研究だけだと社会が変えられないといいますか、社会に還元できないといったところが、すごくもどかしさを感じていて。(ものづくり企業では)実際に今仕事として形にしていける、そこに携われるというのは魅力の1つです」

新規事業の研究・開発に携わる部署に所属しているが、女性社員はおよそ40人のうち、平田さんを含めて3人だ。

同じ部署の男性社員:
「イノベーションを目指している部署なので、多様性があるといろいろな発想が生まれる」

同じ部署の別の男性社員:
「女性が入ることで、今まで気づけなかったところとか、幅広い意見が得られて研究にも深みが出るというか、創造性が高まると思っています」

現場で求められる女性人材。しかし…。

ジェイテクト人事部の担当者:
「文系ではだいたい弊社に応募いただける学生のうち、4割が女性になっています。ただ一方で理系の学生というところでいくと、全体の1割ほどにとどまっているというような現状で、(女子枠の導入で)採用の段階で女性の母集団が増えるというところはすごく望ましい環境に繋がっていくんじゃないかなと思っています」

理工系の女子学生が増えれば受け入れる企業での採用も増えることになり、女子枠の設置が好循環につながるようにも見えるが、課題も残っている。

名古屋工業大学の井門副学長:
「もう少し大学院に進学してくれないかというところが、1つの課題だと思います。もう1つは大学院に行くということは、より高度なレベルで技術開発に携われるということですので、そういった技能を持ったかたちで社会に出て活躍していただきたい」

■女子枠で入学した佐藤さんの選択は「就職」

 この春卒業を迎える佐藤さんも大学院へは進学せず、就職することを決めた。そして、共に学んだ男子学生3人が選んだのは進学だ。

男子学生B:
「『女子なのに修士まで進むの?』みたいな、周りにバイアスはなかった?」

佐藤さん:
「親はないけど、おばあちゃんとかもうちょっと遠い親戚の方になってくると『え~リケジョなんだ』って言われることが多い」

男子学生A:
「悲しいな…(笑)」

佐藤さん:
「私が聞いたのは、男の子だと就職の時に『(大学)院に行かないの?』って聞かれたって」

男子学生B:
「あ~逆に?」

佐藤さん:
「そう、男の子は(大学院に)行くものって思われている。私の理系のイメージは、理系は理系就職したときのイメージが湧きづらい」

男子学生A:
「有名な人、女性の研究者とかが出てきたりするといいのかな。今でいう大谷翔平みたいなわかりやすい存在が研究者とかでいるといいのかなと」

名古屋工業大学の井門副学長:
「1つの手としては、ロールモデルをきちんと示して、こういう道があって成功できるんだというのをできるだけ早いうちに示して、あくまで女子枠は女子学生が普通に入ってこられるまでの暫定的な措置なんですね。こういう枠を設けなくても、女子学生がたくさん受験してくれるような状況になればやめる」

■女子枠の可能性について専門家は「それだけでは限界がある」

 暫定措置は30年以上が経った今も続いている。理工分野へ進む女子学生を増やすための活動に取り組む、山田進太郎D&I財団の大洲早生李さんは女子枠の可能性について課題を指摘する。

山田進太郎D&I財団の大洲早生李さん:
「始まったばかりの大学が多いので、未知数であると。一定数はやはり、そこで是正することで女子が増えるという効果はあるかなというふうには思っていますが、それだけでは大学単体でやれることの限界はあるというふうには思っているので、大学に入る手前の段階で理系に進学しようと、一般枠・普通の入試で行こうと思ってくれるような女子が増える仕組みづくりといったところは当然やらないといけないです」

佐藤さんは、女子枠を利用して工学部に進んだことについては「よかった」と振り返った。

佐藤さん:
「よかったです、すごい楽しい。女子枠があったことで私はいい巡り合いをさせてもらえたなっていう。(工学部で)よかったよって伝えられるし、そういう意味で工学部に入った女性が増えることで、印象がより詳しく伝わるっていうのは、女子枠があってよかったことなんじゃないかなと思います」

2025年2月14日放送