片目では障害と認定されず…『片目失明者』が抱える悩みと金銭的負担 義眼を「美容目的」とされる場合も
01月25日更新
片目だけが見えない「片目失明者」は、身体障害者に認定されないため、検診費用は健常者と負担が同じです。
見た目で差別を感じている人もいて、「義眼」を作ろうとすれば約12万円がかかりますが、眼球が残っている場合は「美容目的」とされ、自己負担です。
片目を失明した人は生活の苦労や差別をなくしたり、軽減するために、障害者認定による支援を求めています。
■作業事故で右目を失明した男性 日常生活に不便も
岐阜県可児市に住む大橋雅夫さん(71)。
大橋さん:
「最近ね、ドリップコーヒーというのにはまっていまして…」
Q.見えなくて、キッチン周りで困ったことはありますか?
大橋さん:
「ないですね、うん。言わなきゃ分からない。『実は俺こっち(右目)全然見えてないんだよ』と言うと『えー、全然気付かなかった』と言う人が多いよね」
片目が見えていないことに気づかれないこともよくあるといいますが、右目は“義眼”です。光を感じることもできません。
コンタクトレンズ型の義眼は常に欠かせないという大橋さん。
大橋さん:
「これ(義眼)がなかったら外に出ていけない。今の僕だったら、やっぱりよう出ていかん。これ入れるの忘れて出て行っても戻ってきて、またはめて行きますからね」
46歳の時、勤めていた鉄工所で工作機械の刃が右目に入る事故に見舞われました。
大橋さん:
「グンと傾けて刃物で削っとったんですよ。(刃が)しなるようになってきたもんだから、これは危ないなと思った途端に、カーンと刃物が折れて目にパンと飛び込んだ。血がぽたぽたと落ちていたから、俺はもう見えんくなるなと、その時にすぐ感じました」
すぐに病院で手術を受けましたが、角膜が傷ついていて、見えるようになる見込みはないと診断されました。
あれから25年。車の運転もでき、「普通」の生活を送っているという大橋さんですが、よく見ると頻繁に視線がサイドミラーに…。
大橋さん:
「絶えずこのサイドミラーを見て、この線より出ないようにはしていますね。それでもよく『あんたは右に寄り過ぎとる』と(言われる)。カーブが急にあったり、上って下りるときなんかは怖いわね、どうしても」
片方の目では遠近感や立体感を掴むことが難しく、運転には注意が必要。暗くなるとより見えづらくなるため、夜間の運転も極力控えていました。
■見える左目も視力低下…検診費用は健常者と同じ負担 義眼の作成費用約12万円も「美容目的」で保険適用外の場合も
日常生活で感じる不便…。さらに、金銭面でも負担がかかっています。定期検診のために通っている眼科。
大橋さん:
「上、下、えーっと左、右…」
見えている左目の視力は、裸眼で0.8。白内障で一時0.2まで下がったため、去年の春に手術をしました。
大橋さん:
「片方だから、(その目が)見えなくなったらどうしようかなと思って。それが一番感じておりました」
何か異常があればすぐに発見できるよう、2か月に1度検査をしていますが、受診料の負担は健常者と同じです。
Q.片目が見えない人が優遇されることは?
大橋さん:
「そんなことは…。身体障害者にならないものだから、それはありません」
さらに義眼は目の状態によって数年に1度作り直す必要があります。作成の費用はおよそ12万円。
大橋さんは労災でまかなっていますが、眼球が残っている人の場合、義眼は「美容目的」とされ保険は適用されません。
大橋さん:
「酒一杯飲むのをやめて、(検診に)来ればいいだけのことだから。僕よりね、子供さんを何とかしてあげたいね。成長するのが早いじゃないですか、それが2年3年も同じ義眼をはめるのは、ちょっとかわいそうだなと思って。障害者になっていないと全部実費だわね。何十万とするのが気の毒」
■就活での差別、仕事での制約…片目失明者の様々な悩み
「片目失明者友の会」東海支部長の立岩秀隆さん(44)。全国でおよそ380人の会員が、障害者認定を求めて活動をしています。
3歳の時、事故で左目を失明した立岩さん。カメラにうつる顔の角度に配慮しながら、話を伺いました。
立岩さん:
「自分が一番感じるのは、やっぱり見た目だと思うんですよ。歳を重ねていって、それほどまあ…割り切りはありますけどね。ゼロかと言ったらそうではない。特に初対面の人なんかは、やっぱり苦手ですね」
年に一度の交流会では、会員たちから様々な悩みが出るといいます。
立岩さん:
「就職しにくいのがあるのかな。やっぱり目が疲れて、なかなか集中してパソコンの作業がしにくいという方もいらっしゃって、そうなると仕事の枠がちょっと狭くなるとか、働きにくさというのはあるみたいですね」
就活での差別や、障害者としての採用にならず健常者として働いているため、身体的な負担が大きいと感じている人が多くいました。
立岩さん:
「苦労とかお金の面でも精神的にも、そういった方に金銭的な補助があれば、助かる人もいるのかな」
■独り身高齢男性は今後への不安も…片目の失明が障害認定されない理由
なぜ片目の失明は「障害」と認定されないのか…。認定基準の調査を進めている研究チームの代表、千葉大学の山本修一教授に聞きました。
山本教授が説明してくれたのは、「QOL=クオリティ・オブ・ライフ」と「ADL=アクティビティズ・オブ・デイリー・リビング」。QOLは「生活の質や満足感」、ADLは「日常の生活動作」を指します。障害を持っている人の生活に対する満足度がQOL、ADLは日常の動作がどれくらいできるかという基準です。
山本教授:
「障害に関してはQOLではなくて、ADL=できる・できないが非常に重要なポイントという風に我々は理解しています。子供のころに片目を失った方と、最近失った方と、全然ここが違うんですね、ADLの差が。それほど不自由を感じないという方も少なくない」
片目の失明により、30度ほど狭くなるといわれる視野。
しかし、これが日常生活にどれだけ影響を及ぼすかについては個人差があり、全員を障害者と認定するのは難しいのではないかといいます。
そもそも全国に何人いるかなど、正確なデータの把握がされていないのが現状です。
山本教授:
「調査対象の数が限られているので、若くして片目失明された方と、割と最近に片目失明された方の比較がきっちりできるかどうか、ちょっと分からないんです。場合によっては、はっきりした結果が出ないという可能性も高いかなと思います」
妻に先立たれ、息子とも離れて暮らしている大橋さん。
大橋さん:
「いやぁ困ったなぁ…。この先どうなるかと思って。でもこんなことでは負けてはおれないと思って、やらなきゃしょうがないもんね、そう思って。だけどやっぱり内心はね、表には出すまいと思っても、やっぱり1人になるとね…」
今後のことを考えると、やはり障害者認定が必要だと感じています。
大橋さん:
「もう歳だから、年金生活者は大変なんです。何とか認定をとれる方向にもっていきたいですね。自分はきれいごとを言っちゃなんですけど、やっぱり自分のためにもね…」