「ドラゴンボールしか浮かばん…」世代で知名度異なる
『どんぐりで作るおもちゃ』子供の前から姿消したワケ
02月22日更新
50代男性の方から「やじろべえ」についての質問が寄せられました。「妻が会社で20代の女性に聞いたら、『それ何ですか?誰かの名前ですか?』と言われたそうです。僕も会社で聞いたら、当たり前と思っていたことにジェネレーションギャップを感じました」と話しています。
どの世代までがやじろべえを知っているのか、そしてなぜ知られなくなったのかを調査。調べてみたら、様々な理由がありました。
■40代「遊びました」20代「初めて見ました」…「やじろべえ」知っている世代どこまで?
まずは昭和世代から。写真を見せ、これが何か聞いてみると…。
70代男性:
「やじろべえか!これが何?」
別の70代男性:
「やじろべえでしょ。私らが小さいときはおもちゃがなかったですからね。自分たちで拾ってきて、こういうのを作るとか」
40代女性:
「やじろべえ!小学校の時ですかね、ただひたすらに右に左にっていう感じで(揺らして)遊んだ感じですね」
皆さん即答。幼い頃の思い出を語ってくれました。では、若い世代は果たして…。
Q.これ見たことありますか?
30代女性:
「わかります、子供の頃に学校とかで作りました」
20代男性:
「いや、ないですね。初めて見ました」
10代女性:
「(Q.名前は?)え、分かんないです…」
2人組の10代女性:
「どんぐり…。分からん、見たことないんやけど」
連れの女性:
「やじろべえ…みたいな。合ってますか?」
2人組の10代女性:
「何?やじろべえって、知らない。(Q.ピンとこない?)やじろべえって『ドラゴンボール』しか浮かばん」
と、10代や20代の多くが、見たことも聞いたこともないと回答。どうやら投稿の内容通りのようです。しかしなぜ、若者たちはやじろべえを知らないんでしょうか?すると、80代の女性は…。
80代女性:
「昔は駄菓子屋さんでそういうものを売っていたの。1円2円くらいもらったら、子供は飛び跳ねてそういうものを買ったという記憶はありますね」
「昔は駄菓子屋さんで売っていた」という情報が…。
時代とともに駄菓子店が少なくなり、“買えなくなってしまった”というのが理由でしょうか?実際に名古屋市内の駄菓子店を訪ねて、聞いてみました。
■手作りで楽しむおもちゃ…なぜ「やじろべえ」は姿を消したのか
創業71年の老舗「堀商店」。フルーツ餅や箱型のフーセンガムといった懐かしい駄菓子に加え、昔ながらのおもちゃも並びます。しかし…。
堀商店の担当者:
「私がこの会社に勤めて20年近くになるんですが、入社してから調べても、ちょっと取り扱っていた記憶はないですね」
駄菓子店でやじろべえを買うというのは、昔もそれほど一般的ではなかったようです。
堀商店の担当者:
「どちらかというと(やじろべえは)公園でどんぐりなどを拾って、自分で作って楽しむおもちゃかなと」
やじろべえは、あくまで「手作りで楽しむおもちゃ」とのこと。今度はお店の人も言っていた「公園」に行ってみました。
ジャングルジムなどの遊具で遊んだり、三輪車に乗ったり、ベンチに腰掛けたり…やじろべえで遊んでいる子はいないようです。今どきの子どもたちは、やじろべえを作らないのでしょうか?
Q.やじろべえは作りますか?
母親:
「いや、幼稚園ではないと思います。どんぐり拾いはありましたね。あるけど、そういうものは作ったことはないです」
別の母親:
「やじろべえはないですね。どんぐりのコマとか、どんぐりで遊ぶ迷路とかはあったんですけど」
小学1年の男の子:
「(Q.作ったことは?)ないです!僕は作らなかったんですけど、コマとかを作りました」
幼稚園や小学校で手作りのおもちゃは作るようですが、迷路やコマなど、やじろべえ以外のもののようで。すると、こんな意見が…。
母親:
「これが何なのか分からない。何で作れるんだろうって。(Q.竹ひごか何かだと思いますが?)そんなのどこで手に入れるんですかね…という問題が。コマだったらつまようじを刺せばできるけどね」
「材料を入手するのが難しい」というのが、 “やじろべえ離れ”の原因なのではという声が聞かれました。そこで今度は、やじろべえを実際に作っている場所で聞いてみることにしました。
■工作体験のワークショップ「作ったのは3年ぶりくらい」
愛知県長久手市のモリコロパークの中にある「もりの学舎」。週末には子どもたちに向け、園内を回る自然学習や、親子で工作を体験するワークショップなどを行っています。
早速、やじろべえの材料を見せてもらうと…。
もりの学舎の水谷さん:
「どんぐりと竹ひごですかね。切ったりするときに使うペンチ、穴開け用のキリですね」
用意するものは、どんぐり、竹ひご、ペンチ、ハサミ、キリ、ボンド。材料は竹ひごを含め、どれもホームセンターで簡単に手に入るといいます。
ちなみにどんぐりも、ブナやコナラなど20種類くらいの木に実るため、公園などに行けば簡単に拾うことが可能だそうで、どうやら材料が原因ということではなさそう。
では、作り方が難しいのか?というと…。
水谷さん:
「慣れもありますけど、とりあえず形ができるのは15分くらいあればできるんじゃないですか」
これもいたってシンプル。キリでどんぐりに穴を開け、切った竹ひごを刺し、ボンドや接着剤で固定すれば完成です。
水谷さん:
「(Q.あっという間ですね)そうですね、穴を開けるところと刺すところがちょっと難しいくらいです」
しかし、水谷さんにやじろべえを作る頻度を尋ねてみると…。
水谷さん:
「(Q.ワークショップで最近作ることは?)ないですね、やってないです。本当に久しぶりに作りました。3年ぶりくらいかもしれないですね」
なんと3年ぶりとのこと。材料も作り方もシンプルですが…。
水谷さん:
「キリなんですけど、これを使うのがちょっと危ないなと。幼稚園とか保育園の先生方に、自然の遊びのことを知っていただく研修をやっていたりするんですけど、『キリを使ったりするのはちょっと怖いな』というので、そういったものではない何か他のどんぐりを使った工作とか、そういうものがないかな?という風に聞かれたりはします」
先の尖ったキリ。保護者や先生たちが、子供たちがケガをするのを恐れ、使うのをためらうことが多いといいます。そのため、今は“やじろべえ風”の工作が人気だそうで…。
水谷さん:
「牛乳パックを使って。(Q.何の形ですか?)トンボですね」
木に乗せると立つ、牛乳パックを切って作る「バランストンボ」です。
水谷さん:
「ハサミで切ってもらって、色を付けてもらうだけなので」
■子供の安全性…だけではなかった「やじろべえ」に触れる機会が減った理由
子供の安全を考え、大人たちがやじろべえ作りを敬遠するようになった。それが今の若者のやじろべえ離れに繋がっているといえそうです。しかし、調べていくと理科教育の専門家からはこんな意見が…。
就実大学の福井教授:
「昭和の時代には低学年1・2年生も理科をやっていたんですよ。ところが平成になるときに、学習指導要領が変わって『生活科』ができました」
それは「教科書の変化」。昭和から平成にかけて学習指導要領が変わり、小学校低学年の「理科」が「生活科」になったことが大きいと指摘します。
福井教授:
「2年生に、おもりで動くおもちゃを工夫して作ったり、動かしたりしながら、おもりの重さ、つけ方によって動きに違いがあることに気付かせるっていうのがあります。やじろべえの単元があって、実際にこれを使って勉強していく」
昭和の「理科」では、小学2年生でやじろべえを使い、支点と重心の関係を学んでいましたが…。
福井教授:
「『低学年にはちょっと難しいのではないか』と理科的な扱いが。『生活科』の教科書では、どんぐりとか松ぼっくりとか、拾ってきたものでいろんな遊びを考えて作って、それで友達と遊んで、また改良して…と学びをしようと変わりました。コマを作ったりする中に、1つ『やじろべえ』があります。これはあくまで参考例なので、必修じゃありません」
平成で「生活科」になると、“身近な自然を使って遊んでみよう”という単元に変化。学習指導要領でやじろべえが“必修”ではなくなったため、触れる機会が減ってしまったといいます。
福井教授:
「子供自らが興味を持ってそれをやろうという中で学ぶほうが、効率がいい。やらされてやるのではなくて…というところがすごく意味があると、今の教育は中心になっていますから。それはそれで間違いではないのですが、われわれの生活、いろんなところで重りによって安定しているものって多くあるので、(やじろべえから学ぶことは)本当は必要ですけどね。それはちょっと残念です。」