要望から3年も市「体制作りが大変」…医療的ケア児の我が子を保育園へ 両親の願い「特別な存在でないこと知って」
03月29日更新
岐阜県恵那市の渡辺大樹さん(38)から「医療的ケア児」を取り巻く市の環境を知ってほしいと取材の依頼がありました。渡辺さんの次男は、日常的にたんの吸引や人工呼吸器の管理などが必要な「医療的ケア児」で、保育園に入園ができません。吸引と声が出ないこと以外は健常児と同じですが、住んでいる恵那市に受け入れを要望して3年が経ちました。
地域の子達と一緒に育ってほしいという家族の声、医療的ケア児を取り巻く環境を取材しました。
■元気に動き回る3歳児なのに…入園内定した保育園から「延期を」
川の飛び石を元気にジャンプ。すべり台を上手に降りたかと思うと、すぐにお兄ちゃんとかけっこ。外遊びが大好きな渡辺剛樹くんです。
3歳になり、食事も一人でできるようになりました。
剛樹くんの母親:
「保育園に入園していいよっていう通知、内定通知書です。4月から入れるじゃん!って」
この4月から保育園に行くことが決まっていた剛樹くん。しかし…。
剛樹くんの母親:
「入園説明会があったんですけど そのときに園長先生から『準備が整っていないので入園を延期してほしい』と言われまして…。え、なんで!?って感じですよね。とても混乱しました」
入園延期を告げられた理由。それは「たんの吸引」です。
剛樹くんは産まれてすぐに、喉の声門の下が狭く呼吸に問題があることが分かって、気管を切開しました。そのため、今でも30分から1時間に1回、たんを専用の機械で吸う必要があります。
しかし、たんの吸引は「医療行為」にあたり、資格のある人か家族しか行えません。
手術直後から、吸引ができる看護師の確保などを市に働きかけてきましたが、検討中の状態がこの3年続いていました。「地域の子供たちと一緒に育てたい」それが両親の願いです。
剛樹くんの母親:
「スーパーとかで同年代くらいの子が走っているのを見ると、ついて行っちゃうんですね。遊びたいんだなって思いましたし、やっぱり保育園に行かせたいと思いました」
■専門家「家族と本人だけが孤立する状態が続く」…全国に約2万人とされる「医療的ケア児」
日常的にたんの吸引や人工呼吸器の管理などが必要な「医療的ケア児」。この10年で2倍近く増え、今は全国におよそ2万人いるとされています。
日本福祉大学の戸枝陽基(とえだ・ひろもと)客員教授:
「今までの障害児のくくりの中にいない、新しいタイプの障害児なので。医療機器、人工呼吸器にポータブルなものができたりして、よりたくさんの子供が地域やお家に帰れるようになったので、急激にこの10年ぐらい大きな課題になってきた」
看護師の配備や保育士の研修などが必要ですが、行政側の対応がまだ追い付いておらず、訪問看護などに頼らざるを得ないのが現状です。
剛樹くんが保育園への入園を希望している恵那市の担当者は…。
恵那市幼児教育課の担当者:
「看護師さんなどを確保して、一緒にケアをしながら集団生活を送るという中でいくと、まだ体制ができていない状況にある。加えて地域の医療機関との連携ですとか、あるいは緊急時も含めて、体制をつくることがなかなか大変」
日本福祉大学の戸枝客員教授:
「(医療的ケア児は)医療者と福祉の人と教育者と、場合によってはそれらをマネジメントする行政の人とか、たくさんの人が多職種のチームを作らないと支えられない子供たちなんですよね。日本というのは縦割り行政という言葉もありますけれども、分野を越えた協働がすごく苦手で、その結果、彼らに必要なチームがなかなか構築されないことで、必要な支援が受けられない。家族と本人だけが孤立している状態が続いてしまうのが、医療的ケア児の本質的で一番シビアな問題だと考えています」
■親「生きる力が湧いてくる出会い大きい」小中学校を普通学級で過ごした医療的ケア児
名古屋市瑞穂区の林京香さん(15)。「医療的ケア児」という言葉が東海地方で知られるようになったきっかけともいえる存在です。
難病をかかえ、痰の吸引や胃から直接栄養を摂取する胃ろうを必要とする京香さんは、2011年、両親が小学校の普通学級への入学を名古屋市に要望しました。
京香さんの母親(2012年):
「やっぱりずっと親と一緒にいるよりは、新鮮な気分になるじゃないですか。友達もいて先生もいて」
スロープを増設したり介助士を配置したりするなどの対応がとられ、通学が可能に。
京香さんは小学校の6年間を地域の子供たちと共に過ごしました。
その後も地元の公立中学校に通い、この春卒業。4月からは市内の公立高校に通うことが決まっています。
この9年間を振り返って両親は…。
京香さんの父親:
「小・中と一緒だった、かけがえのない友達ができた。地域にいて本人が生きる力が湧いてくる、そういう人との出会いが大きいかなと」
京香さんの母親:
「一緒に過ごした友達もきっと社会に出たときに、そういう人に会っても別に驚かないし、一緒にこういう事ができるよねという発想が当たり前になると、いざ社会に出て、例えば区役所に入った、学校の先生になった、看護師さんになったというときに、その子たちの視点が絶対に変わっているんじゃないかな。先の未来に大きな影響があるんじゃないかなと、すごく感じた」
本人だけでなく、周りの子供たちにも気づきを与える“地域での学び”。京香さんのケースをきっかけに、その重要性が認識されるようになってきています。
■民間では「カード」で意思疎通図る練習も 広がりはまだ
名古屋のデイケア施設では、この春から地元の小学校に通う男の子が、「カード」を使ってある練習を行っていました。「ありがとう」や「ごめんなさい」などと書かれた気持ちを伝えるカードです。
施設の職員:
「もっと必要になればカードを増やして、小学校に行っても友達とコミュニケーションをとれたりとか、先生に伝えてから行動したりできる手助けになるんじゃないかな」
コミュニケーション手段には「手話」もありますが、あえてカードを使って伝えることで、周りの友達との意思疎通も可能に。こうした取り組みは民間の福祉法人で取り入れられ始めていますが、まだ一般的とはいえない状況だといいます。
■当たり前に育つために…両親の願い『医療的ケア児』を知ってほしい
最近は身振り手振りなど、ハッキリ意思表示をするようになってきたという、恵那市の渡辺剛樹くん。
剛樹くんの母親:
「同世代にしか分からない雰囲気というか、大人が対応するより(子供同士の方が)喜ぶこととかありますし、お友達を作って集団で遊ぶ楽しみを感じてほしい」
当たり前にみんなと同じ場で学び、育つためにどうしたらいいのか、剛樹くんのような子がいることを知ってもらうことが、まず重要だと考えている両親。母親は、「医療ケア児は特別な存在ではなくて、全国でたくさんの子どもたちが医療と共に暮らしていることを知ってもらいたい」と願っています。