今回演じている真太郎は、森田さんがこれまで挑戦したことのない役柄だけに、とてもやりがいを感じていると語ります。さらに本作の撮影中に20歳の誕生日を迎えた彼が今、感じていることとは?
――真太郎は何を考えているのか読みづらい少年ですね。
「おっちゃんに何を言われても“ふんっ”って顔をしているし(笑)、表情をまったく出しませんからね。ちょっとでも表情をつけると僕の顔立ちのせいか、すぐ柔和というか、柔らかい感じになってしまうんです。無表情とは言いませんけど、顔に表情が出ないよう心掛けてます。とはいえ、いつも同じに見えるかもしれませんが、目だけは違います。ちょっとした動きや力の入れ方で目にいろいろな表情をつけるようにしているんです。そこで真太郎の気持ちを表現しているつもりですが、結構苦労していますね(笑)。もちろん、すごく勉強になってますけど」
――常に険しい表情で笑顔もほとんどありませんね。
「喜怒哀楽というものがなければ、セリフもほとんどなくて。ドラマや映画で“ワル”ってたいがい、実はいいヤツみたいなエピソードが出てきますけど、真太郎に関しては今のところそうはありませんからね(笑)。さらに表情も出さない感じで真太郎の感情を表現するのは決して楽な作業ではないです」
――森田さんは俳優として長いキャリアを持っていますが、演じている役で森田さん自身も影響を受けるタイプですか?
「そういうことを意識したことは全然ないです。役が自分の個人的な部分に“染みる”ということはないし、多分、役はあくまで役として捉えているんだと思います。これまでいろんな役を演じてきましたが、実は自分にとってどんなキャラクターが“ハマリ役”なのか、未だに分からないんです。役作りというものもよく分からなくて。基本、セリフは覚えますが、あとは現場で感じるまま、思うまま演じているだけなんです」
――では、真太郎はどんなことを感じて演じていますか?
「得体の知れないところが面白いですね。これからどんどん真太郎の素性や過去が明かされていくと思いますが、おっちゃんを始めとする周りの人たちの愛情に触れ、少しずつ良い方向に変わっていくと思うんです。ゆっくりとその変化をどう演じようか考えているし、そこが楽しみでもあります」
――真太郎は多分、一目見たときから希望に惹かれているようですが。
「なぜでしょうね。ただ、希望に惹かれているのは確かですよね。僕は母親の存在が大きな意味を持っている気がしています。きっと希望と自分の母親に通じるものを感じたんじゃないか、と」
――真太郎と言えば、ケンカがとても強い設定でもあります。
「クランクインして最初に孝介とケンカする場面を撮ったんですけど、めっちゃ楽しかったです(笑)。僕はもともとケンカなんてまったくしない人間なんですよ。あんな風に人を殴り飛ばしたことなんてなかったから、ちょっと自分が強くなった気がしました。アクション映画とかバイオレンス映画とか観た後って自分が主人公のように無敵になった気になるじゃないですか。あんな気分でしたね(笑)」
――最初は農作業のことを拒絶していた真太郎も畑に行くようになりました。畑の場面の撮影はいかがですか?
「実家が兼業農家なので、畑や田んぼっていうのは、僕にとってとても身近な存在です。ばーちゃんや父ちゃんを手伝ってモミまきをしたり、田植えを手伝ったり。全然特別なことじゃないです。ただ…、実は昆虫が苦手で(苦笑)。アリすら“ひぇ~”なんですよ(笑)。真太郎に関して言えば、興味なさそうな顔をしてますけど、本当は気になっていると思いますよ。自分がこれまでまったく関わったことのない世界なので」
――森田さんはこの作品の世界観をどう思いますか?
「普通に見ればワルと思われる側の人間を物語の中心に据えて、さらに事件を犯してしまった人間の心境を丁寧に描いている…。あまりないタイプの作品だと思います。蓮のセリフじゃないですけど、世間の人たちは『たんぽぽ農場』で暮らす子に偏見を持ちがちですよね。でも、ちゃんと更生して人生をやり直している人もたくさんいるから、人を見た目や過去で判断するのは良くないことだな、と思いますけど…。でも簡単に答えられる問題でもないですよね」
――ところで、この現場で20歳の誕生日を迎えましたが。
「ありがとうございます! 19歳からの1年間、ホンマに充実していましたが、良い形で20歳になることができました。不思議ですけど、19歳になったときは、20歳になるのがすごく嫌だったのに、誕生日の3カ月前くらいからとにかく20歳になりたくてしょうがなかったです。ここ最近は『このまま19歳がいい』と思う気持ちと『早く20歳になって、精神的にもさらに成長できるよう頑張りたい』と思う気持ちを行ったり来たりしてました。この1年、いろんな経験をしましたが、その全てが僕にとってプラスになるものばかりだったんです。それは真太郎という役と19歳の終わりに出会えたこともだと思っています」
――今後は俳優としてどう歩んでいきたいと思っていますか?
「尊敬する俳優の方はたくさんいます。でも“誰々さんのようになりたい”っていうのはなくて、あくまで“森田直幸の色”っていうものを持ちたいですね。とは言え、役作りと一緒で、『じゃあ、自分らしさって何やろ?』なんて突き詰めて考えたことはないですけど(笑)。なすべきことは一つ一つの役との出会い、人との出会いを大切にすることだと思ってます。この1年間の“出会い”はどれもこれも素晴らしいものだったので。数か月前、大阪から東京に引っ越してきたんですけど、めっちゃ勉強になっているし、世界が広がったんです。これから何が待っているのかと思うとすごくワクワクしています。真太郎という役も同じで、これまで演じたことのない役だから、演じ終わったとき何を得たのか、何を思うのか想像すると、すごく楽しみなんですよ」