人口およそ3000人の愛知県東栄町が、町唯一の病院の在り方を巡って2つに割れています。町は医師不足などを理由に、昨年3月に人工透析を中止し、入院病床をなくすことも決定しました。
住民らは町長のリコール活動を始め、969人分の署名を集めて選管に提出。5月26日までの審査を経て、有効と認められる署名が必要数に達すれば、町長の解職を問う住民投票が行われることになります。
■自分の命のために…人工透析を受けるために隣県の病院に通う男性
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愛知県東栄町に住む金田裕之(58)さんは慢性腎炎などを患い、7前から人工透析を続けています。朝7時半に自宅を出て目指すのは、静岡県の病院です。
金田さん:
「昨年3月に東栄医療センターでの透析が廃止になった。1時間かけてリスクを負って行く。自分の命のために行く」
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町で唯一の病院「東栄医療センター」は、長年町民の健康を支えてきました。しかし一昨年、東栄町はセンターでの救急医療を廃止。去年には透析を廃止し、入院病床をなくすことも決定しました。
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これに対し金田さんら一部の住民は、廃止の撤回を求めて必要数のおよそ17倍、977人分の署名を集め医療センターを存続させる条例の改正案が議会に提出されました。しかし、議会はこれを否決しました。
■患者にのしかかかる負担・・・透析に加え母の世話もあり働けるのは週3日だけ
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東栄医療センターで透析が廃止された去年4月から週3回、浜松市の病院に通っている金田さん。
金田さん:
「一番困るのが、足がけいれん起こす。水分いきなり引いちゃうもんで」
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透析後は血圧が下がるなど体調が安定しないため、万が一の時に停車して休憩を取れるように、走るのは一般道です。朝7時半に自宅を出て、帰宅は午後3時過ぎです。
金田さんは、93歳の母と2人暮らし。透析に加えて病院に付き添う日もあり、交通誘導員として働くことができるのは、週にわずか3日です。
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金田さん:
「体の負担も然りなんだけど、神経的な負担もかかるんですよね。本当に止めた理由ってのが、自分たちもはっきり理解できてない」
■町長「続けたいけど続けられない」…財政難に加え最大の理由はスタッフ不足
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なぜ東栄町は、唯一の医療センターのサービスを縮小させたのか。
東栄町の村上孝治町長(63):
「できれば(透析)やってほしい。我々も残したいですし。2億数千万円の町からの繰り入れをしないと、やれない状況です」
病院の経営は利用者の減少で厳しく、2007年度は1千万円の黒字でしたが、昨年度は2億円を超える赤字に。ここ数年は税収が3億円ほどしかない東栄町の一般会計から、年2億円あまりをつぎ込んでいるのが実情です。
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また、過疎化に伴い医師や看護師も年々減り、定年を迎えた医師らに非常勤での勤務を依頼している状態。そして透析中止の一番の理由は、退職した人工透析の技師の後任を確保できなかったためといいます。
村上町長:
「都市部であれ、医師が確保できない状況で、我々の様な過疎地域で一番はスタッフの不足。安全安心に将来においてやれるかどうか。望んでいることは我々も重々わかりますし、病床もあったほうがいいわけですよ。ですが医師も専門職という状況の中で全てを受け入れてそこで医療行為をするとやれることは少なくなってきてしまう」
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東栄町の財政ではこれまでの水準の医療は提供できず、老朽化した現在の建物を取り壊し、およそ10億円かけて体制を大幅に縮小した新たな医療センターを建設する方針です。
■町長の解職を問う住民投票の実施求め…集められた「必要数超える」969人分の署名
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一方、反発する住民の矛先は、村上町長へと向かっています。
(町長の後援会が配ったチラシ)
「まさか!!あなたも誰かに!?」「知らないうちに被害者として巻き込まれているかも?」
医療センター存続を求める署名集めが行われた今年2月、町長の後援会が配ったチラシです。大村知事へのリコールを巡る‘不正署名事件’を引き合いに出す内容に、町長への不信感が高まりました。
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住民らは町長のリコール活動を始め、969人分の署名を集めて5月6日、選管に提出。
「東栄町をよくする会」の共同代表:
「赤字がひどくて、医師がいなくて救急もやれなくてと、それもわかりますが、その原因がそもそも町長にあるのではないですかと」
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5月26日までの審査を経て、有効と認められる署名が必要数に達すれば、村上町長の解職を問う住民投票が行われることになります。
■リコール活動は町を二分する問題に
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さらに長年くすぶっている町長派と反町長派の対立も一連の背景にあるといい、町を二分する問題は複雑化しています。
町民の女性:
「病院はやっぱりなくちゃならない、年寄ばっかりだから。透析の人とかね、遠くまで行かなきゃならないでしょ」
町民の女性:
「町長がとんでもないことをしたわけでもありませんし、リコールまでいわなきゃいけない問題とは思いませんけどね」
町民の男性:
「医療だけが行政じゃないんですよ。透析やっている人の気持ちもわかる。だから何ともいえない」
東栄町の人口はこの春、3000人を割りこみ、65歳以上の高齢者は5割以上を占めています。
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透析治療を受けている金田さん:
「(東栄医療センターで父の最後に)立ち会えた。家で看取れんにしても東栄の地で看取ってやりたいという考えはある」
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「過疎地の医療はどうあるべきか…」東栄町の一連のリコール活動は、それらを問いかけているのかもしれません。