「発達性ディスレクシア」は、生まれつき文字の読み書きが難しい障害の一つです。日本人の7パーセントがこの障害にあたるといわれています。2021年にこの障害がわかった小学6年生の女の子を取材すると、ディスレクシアは、その程度や特性にもバラつきがあるため、1人1人に適した学習方法や支援が必要であることがわかりました。

■長い文章を見るだけで嫌な気分に…文字の読み書きが困難な「発達性ディスレクシア」

 名古屋市内の小学6年生の教室。算数の授業で、教科書に穴が開いた黒いシートを当てて読んでいるのは、三輪かのんさん(12)です。

【画像20枚で見る】生まれつき読み書き難しい『発達性ディスレクシア』第一歩は障害を知る事

かのんさん:
「文字がたくさん並んでると、理解がすぐできなくて、何回も読んだりして…」

黒い穴開きのシートは、目に入る文字を絞って意味を理解しやすくするための工夫です。

かのんさん:
「自分の思ったことを作文にしたり、書くのはすごく苦手で、考えていることを文字にするのが難しい」

 かのんさんは、2021年秋に受けた検査で「発達性ディスレクシア」と判定されました。発達性ディスレクシアとは、主に小学校に入学する頃から明らかになる”発達障害”の一種で、知能や会話に問題がなくても、文字を読んだり書いたりすることが困難で、「発達性読み書き障害」とも訳されます。

著名人では、ハリウッドスターのトム・クルーズさんやスティーブン・スピルバーグ監督が、この障害であることを公表しています。

 担任の先生は、イメージが湧きやすいように小道具を使うなど、かのんさんに配慮して授業を進めてくれますが、それでもついていくのには人一倍の努力が要ります。

 冬休みに自宅で宿題に取り組むかのんさんは、長い文章を前にペン先が宙を泳ぎます。

かのんさん:
「長い文章を見るだけで嫌な気分になって…。何が何だか分からなくなって、何回も読み返したり…」

学校のテストを見せてもらうと、選択肢に丸を付ける問題は答えられているのに、記述式の問題には空欄が並んでいます。

かのんさん:
「思っていることを文字にすることができなくて、どうしても空欄に。ずっとモヤモヤしていて、『どうして書けないんだろう』とか」

■専門家「話し合って折り合いを」…スマホの読み上げ機能を活用するなど周りの配慮が大切

 入学前から大人数が苦手で、強い不安を覚える発達障害だとわかっていたかのんさんは、4年生までは特別支援学級に通いましたが、将来の進路も考えて5年生から通常の学級に移りました。しかし、5年生から6年生に進級するにつれて読む量も多くなり、ついていくのが難しくなりました。

かのんさんの母親:
「どんなテストも半分しかできない、最後まで取り組めない。困っていたので検査をとったところ、明らかなディスレクシア。読み書きの障害があることがわかり…」

 発達性ディスレクシアとわかったことで、勉強の仕方やサポートの方向性が定まったといいます。例えば、苦手な長い文章を、スマートフォンの読み上げ機能を使うと…。

かのんさん:
「読むより聞く方が理解しやすいので、読み上げ機能を使うだけでだいぶ違います。みんなより勉強が遅れていると不安になってしまうので、追いつくために頑張っていたり…」

 かのんさんのような発達性ディスレクシアの子供の学びについて、研究の第一人者は適切な配慮をすることが重要だと話します。

NPO法人LD・ディスレクシアセンターの宇野彰理事長:
「まずお子さんの客観的な状態を、みんなが共有しておく。読めるけどスピードが遅いなら、試験時間の延長が必要でしょうし、漢字を読めないから答えられない場合にはルビを振るとか」

宇野理事長は、「きちんと話し合い、折り合いをつけるのが大切」と話します。

■自分も周りも障害を知ることが第一歩…障害を乗り越え仕事に生きがいを感じる男性

 宇野理事長によると、日本では約7パーセントの人が発達性ディスレクシアで、中には大人もいます。名古屋市に住む本庶暁さん(27)は、中学2年生の時に検査を受け、障害がわかりました。

本庶さん:
「読むのが極端に遅かった。あとは漢字。発音が出てこないのがすごく戸惑いまして、そこからだんだん(友達と)距離を置くようになって…。テストで最低ラインだと『お前こんなんしかできないのかよ』って笑われたり…」

当時、本庶さんが両親に宛てた手紙には、「一歩ずつ」が「一本づつ」、「読んで」が「続んで」など、ところどころ誤字が混じる中に、「学校ははっきり言えばつまらない」と書かれていました。

それでも、陸上競技の力を買われて高校に進学。大学ではパソコンで読み書きの弱点を補い、今は障害者の就労を支援する職業指導員として働いています。

本庶さん:
「この人がこの現場に合っているのか、この仕事に合っているのかを見極める仕事。必要とされているなっていうのはあって、今すごく生きがいを感じています」

 本庶さんは、良好な人間関係を築くには、自分自身も周りも発達性ディスレクシアという障害を知ることが第一歩だといいます。

本庶さん:
「(障害を)知らないと、周りの人はイライラする。『何でこんなことできないんだ』って思われがち…。知れば『これが苦手なんだな、じゃあカバーしてあげよう』ってなってくるので…。まず知ることから大事になってくる」

 小学6年生の三輪かのんさんが、将来の夢を教えてくれました。

かのんさん:
「支援級(特別支援学級)の先生になりたくて…。支援級にいる時に(先生が)すごく優しくて、力になってくれたことがすごく印象に残っているので」

「自分のように勉強で困っている子たちを助けたい」。かのんさんは、先生を目指して勉強を頑張っています。

ディスレクシアについて悩んでいるという方は「ディスレクシア協会名古屋」で相談することができます。こちらでは、検査も実施し、相談に乗ってくれるということです。