旅への思いを諦めたくない人のために…旅行会社が『介護付きツアー』難病や後遺症等に悩む人たちも気兼ねなく
高齢や難病、後遺症などで思うように体が動けなくなると、外出をあきらめがちだが、愛知の旅行会社が企画した「介護付きツアー」が、誰にも気兼ねなく旅行が楽しめると人気になっている。あきらめない旅のカタチを取材した。
■存在を知り「泣きました」…体が不自由でも旅行できる介護付きツアー
難病を抱え思うように歩けない、脳出血などの後遺症で体の自由が利かないなどの理由から旅をあきらめていた人でも、気兼ねなく楽しめる「介護付きツアー」が話題になっている。
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主催しているのは、介護付きツアーを専門に扱う愛知県豊田市の旅行会社で、このツアーには、介護福祉士や理学療法士など介護のプロが2人以上同行し、料金は1人22000円。全国どこからでも申し込むことができる。
今回取材したのは、愛知県豊田市を出発し、西尾市の観光スポットを巡る日帰りの介護付きツアーだ。
朝8時。参加者を迎えにそれぞれの自宅へ向かう。手嶋美恵子(てしま・みえこ 71)さんは、10年ほど前にパーキンソン病を発症し、全身が小刻みに震える症状を抱えているが、一人で参加できる介護付きツアーの常連だ。
手嶋さんの夫・文夫さん:
「1月にも行ってるんじゃないかな」
Q夫婦で旅行は難しい?
文夫さん:
「難しいですね。今、ああいう状態になっちゃったもんで」
次に迎えたのは、毎月ツアーに参加するという三代千草(みしろ・ちぐさ 71)さん。脳出血の後遺症で車いすがないと移動が難しいが、旅が大好きで泊りで旅行に出かけることもある。車両に車いすのまま乗り込んだ。
三代さんの夫・佳良さん:
「機会を作っていただくと、だいたい参加していますね。こちらも安心ですから」
この介護付きツアーは、自宅までの送り迎えも旅の一部になっていて、家族に気兼ねなく参加できる。
ツアーのガイド役は、理学療法士でもある鈴木洋平さんだ。普段は、豊田市のリハビリ施設で、身体機能の回復訓練を支援している。
鈴木洋平さん:
「家族が送迎をしなければならないことがあるので、それが負担。それで気を遣って家族に頼めないという方や、独居の方とかは(出発地点に)来られないので、そういう方の声を拾って、ご自宅まで迎えに行く」
鈴木陽子さん(75):
「不自由なところがあるから、健常者の方とは一緒に行けない」
手嶋恵美子さん:
「私の場合はね、旅行が大好きでバスツアーによく行ったんですよ。この病気になってから、もう行けないとあきらめました。こういうツアーをやると聞いたときは、泣きましたよ、みんなの前で」
あきらめかけていた旅行を、また楽しむことができると参加者も笑顔だ。
■旅行で気持ちを前向きに…理学療養士で旅のプロでもある男性が企画
午前10時、最初の目的地は愛知県西尾市の観光農園「キングファーム」だ
ここで楽しむのはいちごの食べ放題。入園してすぐに頬張る人参加者もいた。
片方の手が使えなくても、移動に車いすが必要でも、介護の手を借りないと思い通りに動けなくても、旬のイチゴを楽しそうに取っていく。
手嶋さんは手に持てないほどのいちごを抱えていた。
大腿骨腫瘍の術後の経過が思わしくなく、リハビリ中の西山正代さん(76)。左ひざには人工関節が入っている。
西山正代さん:
「切りにくいというか、体の左側は力は入らない。(イチゴを頬張って)甘い」
大きなイチゴを頬張る三代千草さん(71)は40代で脳出血を発症し、車いすで生活している。1人で移動することは困難だ。
三代さん:
「あんまりアップはダメよ…」
三代さん:
「皆さんと話ができることが一番楽しいです。結構リハビリもきついんですよ。きついけど、旅行に行けるから…」
介護福祉士の近藤未咲さん:
「リハビリを続けるために旅行に行く。旅行に行くためにリハビリが続けられるっていう感じですかね」
今回訪れた農園は、通路が車いすでも移動しやすい幅になっていて、イチゴも摘みやすい高さになっている。この農園のように、体が不自由な人でも負荷ができるだけかからないような施設を見極めることが、介護付きツアーではとても重要だという。
鈴木洋平さん:
「ちょっと無理かなというところでも、情報を集めて行ってみると案外できちゃう人もいるんです。こんなこともできるんだと自信がついて『次はこういう所に行こう、目標はこうしよう』と次の展開にいける」
鈴木さんは、理学療法士でありながら、旅行を計画・主催できる資格も持つ「旅のプロ」でもある。
豊田市の自動車工場街の一角にある「P-BASE寿店」。
鈴木さんは普段、10年ほど前に仲間と設立したこのリハビリ施設で働いている。
5年前、この施設に介護付きツアーを専門で扱う旅行部門「トラベルwithじぇぷと」を立ち上げた。「介護のプロ」が自身で旅行プランを立てることができるのが強みだ。
長期間にわたるリハビリは、辛く目標を失いがちで、旅行という目的を設定することで、気持ちを前向きにできるのではないかと考えたからだ。
■想定外のハプニングにも対応…旅行をあきらめたくない人のかけがえのない存在
いちご狩りを終えたツアーは、昼過ぎに次の目的地「一色さかな広場」に到着した。
一色漁港の目の前にあるこの施設でランチを楽しむ。この日のメニューは煮魚がメインの海鮮ランチだ。参加者は、慣れた手つきで食事を楽しんでいた。介護は必要最小限、できることは自分でする、それがこのツアーのモットーだ。
そして、食事のあとは、ツアー後半のメインイベント、ショッピングだ。
普段の生活ではなかなか気兼ねなく買い物できないだけに、次々と買い求めていた。
午後3時、西尾市をめぐる介護付きツアーは最後の目的地に到着した。「吉良饗庭塩(きら・あいばじお)の里」で、塩づくりに挑戦する。
まずは塩水を土鍋で煮て、かき混ぜる。
スタッフ:
「紙コップにフィルターがありますので、広げて差し込んでください」
紙コップに、塩をこすフィルターを準備するところから始まる。一見、何でもないような作業だが、両手が使えないと難しく、簡単には工程が進まない。
続いて、鍋を火にかけて加熱するが、ここでパーキンソン病の手嶋さんにちょっとしたハプニングがあった。
手嶋さん:
「見えないんだけど…。(鍋の)中が見えない」
筋肉がこわばって、どうしても同じ姿勢が保てない手嶋さんは、鍋の中をのぞくことができない。想定外のハプニングだったが、棚を低くすることで対応し、塩ができるまでを、無事見届けることができた。
こうしたハプニングがあってもすぐに対応できるのも、このツアーの強みだ。
ツアー参加者の女性:
「リハビリだけじゃなく、ツアーに参加させてもらってとてもうれしい」
三代さん:
「これを楽しみに(リハビリを)頑張ってる」
旅がしたい思いをあきらめたくない。そんな人たちにとって、介護付きツアーはかけがえのない存在になっている。
2023年3月15日放送