中日ドラゴンズの以前の本拠地ナゴヤ球場前で老夫婦が営む老舗ラーメン店が、2023年11月22日で歴史に幕を下ろします。往年の名選手や監督らが訪れ、ファンにとっても聖地として知られる名店の閉店は、惜しまれながら最後の日を迎えようとしています。

■惜しむ客で連日満席に…ドラゴンズの聖地・ラーメン竜が閉店へ

 名古屋市中川区の「ラーメン専科 竜」は、現在ファームの本拠地となっているナゴヤ球場の真横で、1981年にオープンしました。

【動画で見る】「立浪君は子供みたいに…」ナゴヤ球場前の老舗ラーメン店『竜』閉店へ 81歳店主が誇る“ドラゴンズの力”

いっぱいに座っても15席ほどの狭い店内です。

店内にはドラゴンズの選手のサインがずらりと並んでいます。

店主の吉田和雄さんは81才で、主に接客を担当しています。

厨房に立つのは妻の貴美子さん(77)です。

これまで二人三脚で走り続けてきました。

妻・貴美子さん:
「42年前のあの頃は、とにかく脱サラが流行っていたんです。自分も大好きなラーメン店を、ドラゴンズの本拠地前でやったらいいんじゃないかなという考えだったんだと思います」

あっさりとした醤油スープのラーメンを出していて、特に人気なのが薄切りのチャーシューがたっぷりのったスト―レートな細麺に、程よいコクのスープが絡む、店の定番ラーメン「松(まつ)」です。

開業から42年に渡って地元で愛されてきましたが、和雄さんが2023年6月、脳血栓を患って入院し、11月22日で閉店することを決めました。

和雄さん:
「衰えがはっきりするので、もうそろそろ引き際かなということを病気してから痛感したわけですよ」

閉店を惜しんで最後の一杯を求めるお客さんたちで、このところは連日満席です。

男性客:
「地元なので。なくなる前に一度来たかったので、きょう寄らせてもらいました」

別の男性客:
「地元に愛されないと長く続けられないので、残念ですけどしょうがないですよね」

開店当時から通っているという、最古参の男性がいました。

常連客の男性(58):
「野球見て(店の前に)座り込んでいたら、おじさん(店主)が『お前ら何やっているんだ』って、『座ってるだけだよ』って(答えた)。(店主が)『ラーメン食ってけ。まずかったら金いらないから』って。それがこの店に来た最初」

貴美子さん:
「一番最初のお客さん」

高校時代、ラーメンをごちそうになったのがきっかけで、42年間通い続けています。

常連客の男性:
「寂しいよね。ただ単に寂しいよね、これが食べられなくなるのかなと思うと」

■立浪監督を「子供みたいに見てきた」…今でも続くナゴヤ球場への出前

 午前11時半過ぎ、ナゴヤ球場から出前の注文が入りました。

貴美子さん:
「気を付けて持っていってね」

和雄さんは注文を受けた商品を肩に乗せてナゴヤ球場に届け、戻ってきました。

和雄さん:
「高橋宏斗(投手)、斎藤(投手)、勝野(投手)、山井さん(コーチ)もいたな。ラーメンとチャーハンと油ラーメン、そばめし」

立浪和義監督のも常連客の1人でした。

貴美子さん:
「今の監督の立浪君は入った時からのお付き合いだから。子供みたいに見てきましたし。引退してからも、ナゴヤ球場にみえたときは必ず寄ってくれて『お父さん、お母さん元気』って言ってくださった」

立浪監督が現役時代から決まって注文していたのは、冷麺の「桜」です。半熟卵にチャーシューなど、たっぷりのった具材に細麺を絡めていただきます。

立浪監督:
「ナゴヤ球場時代は色々なものを食べさせてもらったんですけど、特に自分は冷やし中華が好きで。ラーメンでも麺が細いのが好きなので」

2018年1月に亡くなった星野仙一さんも「竜」を愛した1人でした。

和雄さん:
「星野さんはごく普通の中華そばですね。監督室で食べるとかね。そういう食べ方をされていましたね」

■当時のエース左腕も最後に来店…忘れられない1日は1994年の「10.8」

 和雄さんが一番忘れられない日は、1994年の10月8日。セ・リーグ優勝がかかった、いわゆる「10.8」の日です。

和雄さん:
「ここがもう街中みんな盛り上がっていた時だと思う。この街自体も銀座通りみたいに人があふれていた。うちも恐ろしくなって、7時半、8時には閉めちゃったんじゃないですかね」

10.8には、高木監督との忘れられない思い出があります。

和雄さん:
「(出前のメニューを聞き)行ったときに、(高木監督が)『マスター何にしようか』と言うから、『昨日勝ったし、昨日と同じものを食べたらどう』って言ったら、ワンタンメンにしたの。『じゃあ、そうするわ』って」

和雄さん:
「見事に負けちゃったんだね。それで翌日、ワンタンメン食わせて負けちゃって『本当に申し訳なかったね』って、謝ったのを覚えています」

高木監督は笑い飛ばしてくれたといいます。

その「10.8」で先発した今中慎二さんがこの日、店を訪れていました。

閉店を知って、コーチ時代以来、約10年ぶりの来店だといいます。

今中さん:
「(この店は)変わってないよ、10年前と今も。(変わったことは)メニューが増えた。裏メニューのチャーハンが本メニューになった。ロッカーに持って来てもらったから、出前。そういうのが多いよね」

貴美子さん:
「色々お世話になりまして、本当にありがとうね。会いたかった、お礼言いたかった。テレビでは見ているけど、年取ったなって思って」

今中さん:
「みんな年取ったよ。俺も年取ったし」

貴美子さん:
「(私は)おばあさんになったでしょ」

今中さん:
「元気でね。また、来るかもね」

貴美子さん:
「ありがとう」

■若きエースも和雄さんの元へ…ドーム移転後の店を支えたの若手選手たち

 26年前「ナゴヤドーム(現バンテリンドーム)」が開業し、「ナゴヤ球場」は賑わいがなくなりました。店の売上は4分の1ほどにまで減少しました。

和雄さん:
「ショックだよね。3万5000人入った球場がね。ドラゴンズが向こう行っちゃったんで、もうずっと折れ線グラフの底ですね」

それでもこの店を支えたのは、ナゴヤ球場で練習をするドラゴンズの若手選手たちです。ナゴヤ球場の前で和雄さんが立っていると、ドラゴンズの若きエース、高橋宏斗投手が近づいてきました。

和雄さん:
「東海テレビに6日に出るからよ、ニュース見とけ」

高橋投手:
「そんなラーメンじゃない(笑)」

和雄さん:
「(俺が)死ぬ前に見とけ(笑)」

高橋投手:
「最後の生きざまをね(笑)」

和雄さん:
「こういうかわいいことを言う」

高橋投手:
「チャーハン、うまい。そばめし、うまい」

和雄さん:
「こいつ口が肥えてないから、何食ってもいい(笑)」

高橋投手:
「おっちゃんが作らなかったら、うまい(笑)」

和雄さん:
「(俺が)死ぬ前に来いよ」

高橋投手:
「気が向いたら行きます」

■「ドラゴンズがあって店がある」…聖地はまもなく閉店へ

 数々のドラゴンズの栄光と挫折を見てきた和雄さん。

和雄さん:
「俺ももうこれからどうしようかと思っちゃうもんね。選手と接しられなくなるからね、そういう寂しさはあるね」

ドラゴンズの選手に、ファンに愛された「聖地」はまもなく、42年の歴史に幕を下ろします。

和雄さん:
「ここのラーメン食わなきゃ出世しないぞなんて、大口も叩けなくなっちゃう。今の時期、選手が辞めていくでしょ。私と同じように戦力外通告受ける人がいっぱいいるんですよ。それを何十年と見守ってきたんだから。そういうのがやっぱり辛いところだよね。ドラゴンズがあって、この竜があるようなもんだ。ホント、そうだと思う。ラーメン竜の力じゃない。最後のあがき、22日まで頑張るよ。登板しますよ」

2023年11月6日放送