
合掌造りで知られる岐阜県白川村の白川郷は2025年、世界遺産に登録されて30年の節目を迎えた。外国人観光客が急増しているが、住民の高齢化が進み、美しい景観を後世にどう残していくかが課題となっている。
■珍しい”人が住む”世界遺産…500人の集落に年間200万人の観光客
合掌造りの建物が立ち並ぶ白川村の白川郷は、古き良き日本の原風景が人気の観光地だ。とりわけ冬は集落が白い雪に包まれ、幻想的な光景が広がる。
【動画で見る】世界遺産登録から30年…白川郷で進む住民の高齢化 合掌造りを『売らない 貸さない 壊さない』3原則の未来は

白川郷の中心となる荻町地区では大小100棟あまりの合掌造りに、今も人々が暮らしていて、およそ500人の小さな集落に訪れる観光客は年間200万人にものぼる。

白川郷が世界に知られるようにきっかけは1995年、富山県の五箇山とともに、ユネスコ世界文化遺産に登録が決まったことだった。

江戸時代から続く歴史ある合掌造りや、美しい農村の風景が世界遺産に選ばれた理由とされている。

また、厳しい自然環境の中で生きる住民の絆、「結(ゆい)」と呼ばれる助け合いの精神も高く評価されたという。
■“助け合い”で集落を守ってきた「結」の精神
合掌造りの集落で最大級の「和田家」には、明治時代や大正時代の「結帳(ゆいちょう)」と呼ばれるものが残されている。

屋根のふき替えに使う茅を誰がどれだけ提供してくれたのか、どんな仕事を手伝ってくれたかが記録として残され、逆の立場になったときに「お返し」をしたという。

2013年に行われた合掌造りの屋根のふき替えには、地元の住民およそ40人が参加した。

経験者が若い世代に教えながら、技術を受け継いでいく。
荻町地区の住民:
「自分の家もやらなきゃいけない時に、助けていただかないといけないので」
合掌造りの家主:
「この技術を廃らせないように、“結”の絆を深めていきたいと」

作業が終わったら家主が酒や料で住理民たちをもてなす。

『困ったときはお互い様』、助け合う「結」の精神を大切にして、暮らしを守ってきた。
■観光客は30年で3倍に…“先人の知恵”詰まった合掌造り
両手を合わせたような形から「合掌造り」と呼ばれる建物には、先人たちの知恵が詰まっている。かつては養蚕業が盛んだったことから屋根裏を活用し、蚕が飼われていた。

釘はほとんど使われていないが、頑丈な作りで豪雪地帯の雪の重みにも耐えられる。

囲炉裏の煙が柱や梁をいぶすことで、虫や湿気から守ってくれる。

アメリカからの観光客:
「合掌造りはとても美しいね。何百年も前の生活が見られるのは素晴らしいよ」
世界遺産に登録されてから30年で、観光客の数は3倍近くに増えた。

コロナ禍でいったん落ち込んだものの、インバウンドの復活で、にぎわいが戻ってきた。
■危険な雪下ろし作業も…住民の3割以上が高齢者 “維持”が今後困難に
世界遺産登録をきっかけに人気の観光地となった白川郷だが、将来には不安もある。

荻町地区では住民およそ500人のうち、3割以上が65歳以上の高齢者で、合掌造りの維持が今後難しくなるとみられている。
合掌造りの雪下ろしは重労働で、危険な作業だ。

屋根の雪は急斜面で落ちやすいようになっているが、屋根の一番高いところは平らで積もってしまう。住民が屋根に登って、手作業で雪を落とさなければならないが、担い手は少なくなっている。

荻町地区の住民:
「今後はどうなっていくのか、本当に分からないですね。息子は3人いるけど、誰か帰ってくるかどうかわからないですよね。外でやりたい仕事があれば、なかなか帰ってきにくいし、無理にということはできないし」
■高齢化に高額な葺き替え費用…景観守る「3原則」も困難に
美しい景観を守るため、住民たちは『白川郷荻町集落の自然環境を守る会』を作り、毎月会合を開くなど活動を続けている。

戦後、生活様式の変化に伴い、合掌造りの建物は減少を続けた。
守る会は1971年(昭和46年)に合掌造りを『売らない・貸さない・壊さない』という3原則を作って景観を守ってきたが、このままでは高齢化で空き家が出るおそれもある。
守る会の野谷信二会長:
「『売らない・貸さない・壊さない』、売られていく合掌造りを守ろうということで守ってきたんですけど、今度は守る人がいなくなる。少子高齢化で人口減少もそうなんですけど」

住民たちで行ってきた茅葺き屋根のふき替えも、かつては茅を家ごとに育てていたが、静岡県などから購入することが増えた。
ふき替えの作業も業者に頼むことが増え、現在では費用が1000万円~3000万円ほどに膨らみ、国や村の補助金などに頼っている。

野谷会長
「最近の家のほうが住みやすいと思うんですけど、観光のために合掌造りは守っていかないといけないと思いますので。自分は屋根ふきの職人もやっているけど、職人も減ってきているのは事実なので」
■10年前に移住した女性は「欠かせない存在に」…“貸さない”ルールの変更が議論に
昔ながらの住民だけで守ってきた合掌造りに、新しくやって来た住民がいる。千葉県出身の福田麻衣子さんは地域での活動が認められ、合掌造りに住むことを特別に認められた。

福田麻衣子さん:
「1人ではなかなか暮らしていけない不便さみたいなところが、逆に人間らしいというか、居心地がいいなってすごく感じているので、いい所はそういう所なんじゃないかなって」
10年前、地域おこし協力隊員として白川村にやってきた福田さんは、助け合いながら暮らす住民の姿にひかれ、移住を決めた。

福田さんは、住民で作る「守る会」にも参加し、毎月発行する会報の編集を任されている。2025年1月号では北陸の観光地を視察し、空き家対策などを記事にして掲載した。

観光客にマナー向上を呼びかける4コマ漫画の制作にも地元の女性たちとともに携わるなど、地域の住民をつなぐ、欠かせない存在となっている。

福田さん:
「ちょっとでも地域を守ることにつながっているならやっていきたいなと思っていますし、よそ者と地元の人とが一緒になって考えるというのが大事」

住民たちは今後も『売らない・貸さない・壊さない』の3原則は守りつつ、将来に備え『貸さない』ルールの変更について、議論を始めている。
守る会の野谷会長:
「今後しっかりとしたルールを作って『どうしたら貸せるか』ということをもっと明文化していかないと、まずは親戚、荻町の中、それでもいなければもしかしたら外部の人になるかもしれませんし、地域の行事に参加したりとか、地域に溶け込んでくれる人はやっぱり来てほしい」

100年先も、200年先も美しい景観を残したい。合掌造りを未来へつなぐために、住民たちの努力はこれからも続く。
2025年1月14日放送