
名古屋市昭和区の「名古屋柳城女子大学」が、入学希望者の減少などから2026年度以降の学生の募集を停止することになりました。定員割れする大学は年々増えていますが、名東区の「愛知東邦大学」は、実績ある“ブランディング”のプロを招聘し、志願者を3年で倍増させることに成功しています。
■2024年度は私大の約6割が定員割れ…変わる大学の「ブランディング」
名古屋市昭和区の「名古屋柳城女子大学」を運営する法人は、入学希望者の減少などから存続が困難になったとして、2026年度以降の学生の募集を停止すると発表しました。大学は2025年4月に入学する学生らが全員卒業した時点で、閉校する方針です。
【動画で見る】約6割が定員割れの中…『ブランディング』で志願者数倍増に成功した私立大学 プロが導く“オンリーワン”への道

開校時に設置された学科の入学者数は毎年、定員70人の約6割にとどまっていたということです。
入学者が定員に満たない大学は年々増えていて、2024年度は私立大学の約6割が定員割れしています。少子化は続くため、今後もこの数字は大きくなると想定されています。

大学の対策のいまについて、大学の広報やブランディング支援を行っている「入試広報戦略LABO」に聞きました。

入試広報戦略LABOの担当者:
「ひと昔前だったら、高校3年生に対して何をしたらいいかという視点での活動が主だったところだと思うんですが、今はそれがキャリア教育の一環で、(高校生は)もっと早くから大学の活動に意識がありますし、(大学側も)もっと早い段階からブランディングの意識で活動することが肝要」と話しています。
■3年で志願者が倍以上に…愛知東邦大学がブランディング託したプロ
大学のブランディング例では、武蔵野大学が私立大学で初の「データサイエンス学部」を2019年に設置しましたが、全科目で講義やテストがなく、学生が自ら答えを導き出すスタンスの授業をしていて、2020年度は倍率が30倍を超える人気になりました。

近畿大学の取り組みは有名です。「近大マグロ」をコンテンツ化するなど、他にない広告戦略で差別化に成功しています。2024年度まで、11年連続で志願者数が日本一となっています。
東海地方では「愛知東邦大学」が、ブランディングに成功しています。

取り組みを評価する「ジャパン ブランディング アワード2019」では「MAZDA」「Airレジ」「カルピス」「OMRON」など、誰もが知るブランド名に、愛知東邦大学が肩を並べました。

愛知東邦大学は、名古屋市名東区にある大学で、野球で有名な東邦高校も同じ系列です。実際にブランディングを始めて、2016年度は513人だった出願者が、2019年度には1062人(定員350人)と、倍以上に増えたということです。

愛知東邦大学は、2001年に設立されましたが、入試広報課の三輪哲也さんは「小規模校なのでそれに伴って知名度もそこまでいきわたっていない、志願者も減ってきていて本当にこのままで大丈夫かというような不安感だとか危機感っていうものは非常にあった」と振り返ります。

窮地を救うべく、大学が招いたのが上條憲二教授です。
愛知東邦大学の上條憲二教授:
「先生、うちの大学ってカッコよくなるんですかって、ある学生がボソッとつぶやいたんですね。そこでカッコよくできるよっていって」

上條教授は、日本航空やNEXCO中日本など数々の企業に携わってきた、ブランディングのプロです。
■ただ集めるだけではない“上條式アンケート”
上條教授はまず、担当したゼミの学生に、在学生130人にこの大学の意識調査をさせました。
調査では「入学したのは自分の偏差値に合っているから」「人にはこの大学は薦めない」など、うしろ向きの回答が次々と出たということです。

そして上條教授は、この結果を教職員に一方的に送ったといいます。
上條教授:
「教員の人とか職員のみなさんが、ブランディングってどういうことなんですかっていう声がちらほらと出てきたんですね。結局ブランディングって、現場にいる先生とか職員の動きが変わらないと、絶対成功しないだろうなと思ったものですから」

正式に委員会が発足すると、在校生や教職員はもちろん、高校の生徒や就職先の企業など、関係者3000人以上にアンケートを実施し、その結果を冊子にして配りました。

その際、意識したのが「手渡し」することだったといいます。中身と共に、口頭でも説明し「自分のこと」として考えてもらうためです。こうした方法で、まわりの機運を高めていったといいます。
■意見を自由に言える雰囲気づくりに配慮した座談会
そして集まった意見を元に「座談会」を開催しました。気を配ったのは「堅苦しくならない」ようにすることです。コーヒーや軽食などを用意して行いました。

上條教授:
「大学としてはやるかもしれないけど、自分は自分だよねという先生たちとか職員、特に先生たちが多いんじゃないかなと。その人達の意識を、トップダウンだと絶対にダメだと思いますので」
自由に意見を言える空間で、調査結果の意見交換をした結果「キャンパスが小さくて狭い」「偏差値が低い」といったネガティブな考えは「学校と先生の距離が近い」「別の尺度で見直せばよい」といったメリットになる意見も出たといいます。
こうして前向きになっていく中で、ブランディングの軸になるコンセプトを決めました。
愛知東邦大学の入試広報課 三輪哲也さん:
「オンリーワンを、一人に、ひとつ。というコンセプトになります。学生に対して真摯に向き合って、子供の可能性をしっかり見出して、成長を促していく、成長支援をしていく」

学生が自分の強みを知り、それを磨けるよう、教職員が向き合って取り組む精神を短いセンテンスに込めました。

コンセプトに沿ってロゴも変更し、イマドキのスタイリッシュな感じになりました。
■教授「ブランド作りは常に意識が必要」…大きく変わった愛知東邦大学
オンリーワンの存在を育てることへシフトチェンジした大学は、その人材を集めるために当時、全国的にも珍しかった入試制度を取り入れました。それが「自己プロデュース入試」です。
三輪さん:
「(高校で)大学のことについてしっかり調べなさいよっていう指導はなされてるんですけれども、実際それを入試のなかで、軸として活用していくっていうのは珍しい取り組みだったんじゃないかなと思います。何を学び、どう成長していくのか。そして将来どうなっていきたいのかっていうのをまさしく自分でプロデュースし、それをプレゼンテーションしていくような入試になります」
成長させたい能力や4年後に描く姿、受けたい授業などをプレゼンし、面接官からはプレゼン内容のみ質問を受けるという試験方式です。

この試験で2024年に合格した生徒に、評価を聞きました。
愛知東邦大学 人間健康学科1年生の望月和香さん:
「委員会だとか部活などで、個人的にすごい頑張ったなって思っている部分があったので、そういう場を披露して認めていただいて合格に繋がるっていう受験方法はすごく自分に合っていたなと思います」
この試験を実現させるために、大学のHPには授業計画を細かく公開し、予約すればいつでも研究室や在校生の訪問ができるようにして「大学の今」を限りなくオープンな形にしました。

三輪さん:
「我々自身も『オンリーワンを一人にひとつ」っていうのを皆が達成するんだっていう共通認識をしっかりもって接していくというのが求められていく、大切になってくる部分だと思います」
オンリーワンの存在をブランディングすることで、2019年度の志願者数は対策前の倍の1000人を超えました。
望月さん:
「(教職員が)やりたい事をすごいサポートして下さるんですよ。将来大学院に進みたいと思っていて、それを心理系の先生に話したらすごく日頃から声をかけてくださるようになったりして、すごくいいなって思っています」
上條教授:
「(ブランドの)確立はなかなかしなくて、いつもこう意識を持っていないと『はいこれで終わり』ということはないんじゃないかなと思います」
2025年2月28日放送