全リスト入手…PTAから名古屋の学校が受けた総額1億8千万円分の寄付『第二のサイフ』状態変えられるか
義務教育は無償と定められ、学校で必要なものは原則公費で賄われるのが本来のあり方だが、PTAが多くの寄付で支えているのが実態だ。過去5年間に名古屋市内の学校が受けた全ての寄付のリストを入手すると、そのほとんど全てが定められた手続きを経ずになされていた。
■ほぼ全てが“ルール無視”…情報公開請求で判明した名古屋市の学校への“PTA寄付”の実態
東海テレビの取材でわかった、PTAが学校に多くの寄付をしている実態。名古屋市教育委員会が調査し、発表では過去5年間で学校が受けた寄付の総額は、約1億8000万円分にのぼった。
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情報公開請求で入手した506ページに及ぶ調査結果から、寄付の詳しい内容が判明した。
記者:
「灯油っていうのもありますね、ストーブで使う灯油ですかね。特に中学校は、吹奏楽部の楽譜ですとか部活のユニフォームですとか、部活動関係の物が多いようですね。この『学級経営物品(シール・スタンプ)』というのは何なんでしょうか、教室で使うようなものでしょうか」
東区のある小学校では、コロナ対策の消耗品や飼育する動物のエサなど、最も多い年で82件もの備品の寄付があった。
資料には、定められた手続きを経ていれば丸印が印字される欄があるが、ほぼ全ての欄は空白だった。
寄付を受け入れていいか、学校は市教委と相談するのが本来のルール。これを無視して受け入れていた寄付について、市教委は金額ベースで「全体の8割」と説明していたが、件数では98%、学校数では94%とほとんど全てといっていい割合だ。
特別教室のエアコンの寄付は、複数の学校であった。以前取材した小学校では、市教委に設置を要望しても認められず、PTAを頼ったという声が上がっていたが、今回の調査では5年間で延べ10校の小中学校でPTAが寄付していたことがわかった。
このほか高額で目立ったものとしては、体育館や教室で使うプロジェクターの寄付があった。またルールに基づく手続きはされていたが、グランドピアノや校内放送の設備など200万円近くのものを寄付したPTAもあった。
全部で3640件報告された寄付の中には、他にも給食の食器など公費で賄うべきではと思えるものもあったが、市教委は教頭への聞き取りだけで全て「PTAの自発的な寄付」と判断し、問題ないとの主張を続けている。
■「先生のおねだりはダメ」PTA会長の集会で寄付の注意点を確認
学校側の「ルール違反」について、名古屋市内のPTA会長の集まりでも、注意点が話し合われた。
名古屋市PTA協議会・前副会長の下方丈司さん:
「そもそもPTAは『学校で必要なものを買うための団体』ではない。学校の先生から『これ買って』とおねだりされてはいけない」
寄付ができるのは、創立記念など限られた場合が想定されていることや、PTA側の自発的な寄付というには全ての会員が寄付に納得したうえで、PTAに加入していなければいけないことなどが説明された。
名古屋市PTA協議会・会長の高橋功さん:
「公費で賄うべきものは公費でというのが大原則なんですけど、それ(公費か)はPTAの保護者側では判断できないことだと思うんです。判断できないからこそ、名古屋市には教育委員会と学校側が相談するというルールが原則として設けられているので。私たち保護者としても『先生、教育委員会に相談していただけましたか』と。それは役員の方もそうだし、一般の会員の皆さんも、それは大丈夫なのかなっていう当事者意識を持っていてほしい。それで変わっていくんだろうなというのが、私の思いです」
■「教師の研修費をPTAの会計で」…名古屋市だけじゃないPTAの「第二のサイフ化」
こうした寄付という形のPTAの負担は、名古屋市だけの問題ではない。愛知県豊橋市で、この春まで11年間にわたり小・中・高校のPTAで会長などを務めてきた、鈴木順士さんも断言する。
豊橋市の元PTA会長の鈴木順士さん:
「もう間違いなく第二のサイフですね。100%その通りだと思っています」
見せてくれた、小学校のPTA会長をしていた時の予算書には「児童活動補助費」などが合わせて90万円あまり、「環境整備費」として10万円が計上されていた。
名古屋市で判明したような「備品の寄付」ではなく、学校側が自由に使い方を決められる、文字通りの「サイフ」としての支出だ。詳しい使い方については、ほとんど説明を受けなかったという。
鈴木さん:
「校長がPTAの役員会に来ていたんですけど、教師の研修代をPTAの会計から出させてほしいと。『研修を受けることで教師の質が上がり、それがお子さんたちに還元されます』という説明で。そういうのが多分この(支出の)中のどこかに入っていると思うんですけどね。いま思えばそれ絶対にダメじゃんと」
使い方はほぼ学校任せで事実上「現金を寄付する」という状況は、各地のPTAで見られる。例えば、岐阜市内のある小学校のPTAの資料には「教育奨励費」として170万円が計上されている。
このPTAの元役員によると、一般の保護者への使い方の説明はなく、施設の修繕や備品の購入などに使われていた。
また、職員室の印刷機のリース代もPTAが負担している。
■“クリーニング問題”には新たに予算も…改革に乗り出した川崎市は公費で支出すべきものを明示
「第二のサイフ」状態にどうメスを入れるか。改革に乗り出しているのが、神奈川県川崎市だ。
川崎市教育委員会学事課の並木久美子担当課長:
「やはり、なぜPTAがこれを負担しているんだろうと疑問に持たれるケースは多くあったかと思います。寄付という手続きをとらずに、何か物がPTAから学校に流れるということも実際にあったようです」
川崎市でも、名古屋市のように手続きを無視した備品の寄付などがあり、保護者から疑問の声が上がっていたという。教育委員会は学校の様々な場面で必要な経費のうち、原則公費で支出すべきものをリストアップした。
例えば、授業で使う教材や消耗品は“当然”公費。ピアノの調律費や卒業証書の筆耕代などは、PTAがお金を出しているところもあるが、これも公費だ。遠足や修学旅行の先生分の入場料などは支出元が曖昧だったが、公費負担と示した。部活動の用具も、個人の持ち物となるユニフォームなどを除いて、公費負担が原則だ。
これらは寄付を受けないのが基本だが、PTAから申し出があった場合は、学校は「PTAの総意」かを確認しなければいけないルールにしている。
並木担当課長:
「カーテンクリーニングの件は、本当に本当にたくさんの声あったんですね。なんとかしたいという思いがありました」
単にルールを示しただけではない。全国的にもよくある、教室のカーテンを保護者が洗濯したり、クリーニング代をPTA会費から出したりという状況に疑問の声が集中した。解消するにはお金の面での手当てが必要と考え、川崎市内に116ある小中学校のカーテンクリーニング費用として、市の予算で新たに約4000万円を計上した。
並木担当課長:
「皆様の声を蓄積して、その中で我々がやるべきことを考えた時に、もう(PTAの寄付の問題に)着手しなければいけない時期ではないかということで、もちろんPTAは任意団体なので中のことまでは介入することは難しいかと思うのですが、お金のことをよくわからない中で、なんとなく学校にお金が流れていることがあるとすれば、それは適正にしなければいけない」
川崎市では、子供が急病になった時などに使うタクシー代について、事前に各学校にタクシーチケットを配るようにした。公費が使いにくいとして「第二のサイフ」に頼る例もあったが、現場の教師にとって使いやすくする工夫を模索しているという。
このほか、さいたま市ではPTAから学校への寄付を全てホームページで公開し、透明性を高める取り組みをしている。
2023年6月20日放送