大麻に関する事件が連日のように続いています。愛知県では今年の検挙数のうち、約7割が10代から20代の若者で、違法薬物に手を染める入り口、ゲートウェイドラッグとも呼ばれます。売人を名乗る男らを直撃し、その実態に迫りました。

■「大麻、今日受け取れます」…指定されたアプリにはすぐに返信が

 芸能人や大学生など、連日のようにその広がりが明らかとなる「大麻」。日常にどれほど迫っているのか、特定のワードを加えて検索しました。

 売買を匂わせる投稿はあっさりと見つかり、掲示板には「野菜」「葉っぱ」「草」などの隠語で表現されていました。

 履歴を残さないためか、指定されたアプリを使い、大麻の売人を名乗る人物にメッセージを送信。すると、わずか数十秒後、『こちらでお願いします』とすぐに返信がありました。

 その後、数回のやり取りを重ね、名古屋市内の公園で会う約束を取りました。

■男「1人で来てもらっていいですか」…現れた中東系の外国人のような男の警戒心

 現地には記者2人で深夜0時頃にスタンバイ。すると、1台のバイクが公園の脇に止まりました。

 中東系の外国人のような顔立ちをした体格の良い男がバイクから降りてくると、携帯電話に着信が…。

売人風の男:
「もしもし、すみません着きました。たぶん目の前にいるのですけど、1人で来てもらっていいですか」


 男は警戒しているのか、1人で来るよう要求してきました。

売人風の男:
「話しながら行きます、ゆっくり。見せるだけなので。品物っていうか今日の野菜(大麻)です。やっぱり基本的に怖いので、売る側も買う側も」


 こう話しながら、公園の奥まで50メートルほど歩いたところで、男が切り出してきました。

売人風の男:
「ただの葉っぱクズみたいな。これっすね」

 大麻だとして見せてきたのは、警察が公開する押収品などとよく似た、乾燥した草のようなもの。本物であれば、7年以下の懲役などに処される犯罪です。

売人風の男:
「薬物っていう薬物じゃないですけどね、大麻は。リラックス系ですかね。(やると)気分が落ち着いたり、すごいリラックスモードになる」


 自分で作ったり、栽培はしていないと話す売人風の男。記者が質問を続けることおよそ5分。男が不意に話題を変えてきました。

売人風の男:
「ちなみに今、別の品種があるのですけど。持ってきますけど見ますか」


 停めてあったバイクへと戻る男。すると、荷物を取り出すことなく、突然エンジンをかけ始めました。

売人風の男:
「すみません、お客様の方がちょっと怪しいと思ったので、今回見送りって形で…」

 記者からの質問に、違和感を覚えたのか、男は去って行きました。

■急増する大麻事犯の検挙数…今年は約7割が未成年や20代 コロナ禍で薬物犯罪のみが増加している現実

 疑われさえしなければ、買うこともできたであろうこの異常な現状。愛知県警の薬物銃器対策課は、「大麻は若年層の間でゲートウェイドラッグ、つまり違法薬物に近づくきっかけとなる場合が多い。若年層は友人知人等から誘われると断り切れず、いわゆる薬物犯罪の入口ですね。そのきっかけとなるドラッグ」と話し、今、特に若者の間で大麻が蔓延していると指摘します。

 愛知県内の大麻事犯の検挙数を示したグラフ。ここ10年で急速に広がりを見せていて、特に今年は、全体のおよそ7割が未成年や20代の若年層。9月までで、すでに去年の数を上回っています。

 また、新型コロナで外出を控えるようになった今年の前半、犯罪件数は軒並み減少傾向となったにもかかわらず、薬物犯罪だけはむしろ増えていて、薬物銃器対策課の担当者は「若者に限らず、新型コロナウイルスの影響で閉塞感を抱えて、その逃げ場やストレス発散のために違法薬物に手を出してしまうこともあるようだ」と話します。

■19歳の客引き「中高生が『野菜ある?』って」…ゲートウェイドラッグ蔓延の実態

 蔓延する違法薬物と、その入り口・ゲートウェイドラッグとなる大麻。名古屋・栄の繁華街では思いもよらぬ事態にも直面しました。

 1人の客引きの男が「お探しないですか」と、声をかけてきました。

記者:
「ハッパ(大麻)とかってあります?」

客引き:
「ハッパは一応回せますよ。僕自体はプッシャー(売人)じゃないですけど、知り合いがプッシャーで」

 売人を紹介できると話すのは、まだ19歳の少年。17歳の頃、大麻を売りさばき有罪となり、この春少年院を出たばかりだといいます。

客引き:
「声かけられますよ『野菜ある?野菜ある?』って色んな人から掛けられます。(大麻を吸っているのは)20代もいれば10代もいればみたいな。高校生とかも多いですね。中学生もいますし」

 大麻を求め、中高生までもが声をかけてくると話す少年。客引きが売人との仲介役になっているのでしょうか…。

■売人名乗る男「僕今、大麻入っている状態ですよ」…目の前で吸った「大麻リキッド」

 繁華街でさらに取材を続けると、売人を紹介できるという、別の客引きにもすぐに接触することができました。1時間ほどで現れたのは、コバヤシ(仮名・24)。

 一見にこやかで気さく。昼間は仕事をしているものの、夜は時折、違法薬物を売りさばいていると話します。

コバヤシ:
「買うヤツバンバンいます。知り合いで、議員さんでやっている人いますからね。(吸うと)音楽聞いとって楽しいです。本物のライブ会場にいるような。あとメシがやっぱ旨いですね。それが一番顕著だと思います。コンビニ弁当とかがめちゃくちゃおいしく感じられるんですよ」

「感覚が研ぎ澄まされる」…。大麻の感覚を饒舌に語るコバヤシに、脳の障害など大麻によるリスクを気にする様子はまったく感じられません。さらに…。

コバヤシ:
「ちなみに僕今、大麻入っている状態なんですよ。ちょっと眠そうじゃないですか?目がちょっとトロトロっすよね。目がこういう感じになっちゃう」

 この瞬間も大麻を使用した直後だと話し、コバヤシが見せてきたのは、細長い特殊なケース。中の液体は、大麻の幻覚成分を抽出した「大麻リキッド」だといいます。

 大麻リキッドは、カートリッジに入った液体を、市販の電子タバコで気化させて吸うため、大麻だということがわかりにくいこともあり、近年急速に広がっています。

コバヤシ:
「大麻を5個くらい凝縮したのがコレなので、強いんすよ。値段も高いっす。1本3万5000円とかなんで」

 そう言うとコバヤシは、目の前で大麻リキッドだというものを吸ってみせました。

■大麻は「酒と一緒ぐらい」…すぐそばに広がる薬物への入り口

コバヤシ:
「逆に、酒飲んどる方がよっぽど危ないっすからね。僕、酒飲んだことないんですよ。なので僕は酒に対してそういう考え方」

 酒を飲んだ事がなくても、大麻は吸う、と話すコバヤシ。

コバヤシ:
「僕の酒に対する考えと、お兄さんたちの大麻はたぶん一緒ぐらい。それでも捕まってないっすからね。アホなことしなきゃ捕まらないっすよ」


 世間の酒への認識と、大麻への認識は同じ…。

 重大な罪を犯しているという意識を感じさせることなく、コバヤシはまた夜の街へと消えていきました。

 インターネット、夜の繁華街…。誰もが自由に出入りできる日常に潜み、若者を中心に蔓延するゲートウェイドラッグ、大麻。薬物への入り口は、すぐそばまで迫っています。