オフィス街を颯爽と走るメッセンジャー。名古屋市中区の自転車便サービスの会社では、今、新型コロナの影響でビジネス書類などの配達が激減しています。
そこで、この会社が新しく活路を見出したのが、ビジネス便ではなく、弁当のデリバリーサービスや本の宅配などです。
届けるモノは変わっても、大切に届けるキモチは変わらない。“自転車便は人と人を繋ぐもの”、コロナ禍の今だからこそ、自転車への更なる可能性を感じています。
■新型コロナの影響でビジネス需要が半減も修理の依頼が増加
名古屋市中区・新栄にある「デイジーメッセンジャー」。企業からの注文で取引先への書類などを配達する名古屋で唯一の「自転車便サービス」として14年前に開業しました。
代表の嶋崎出さん(44)とスタッフ2人の小さな会社です。多い日には1日20件以上の依頼が入っていましたが…。
嶋崎さん:
「コロナになってからは半減しましたね。会社に人がいない。テレワークになっちゃって…」
その一方で増えているのが、配達業務の傍らで始めた、自転車の修理です。感染予防のため、自転車で移動する人が増えたこともあり、以前より約3割依頼が増えました。
スタンドが壊れたと男性がやってきました。早速修理に取り掛かる嶋崎さん。スタンドを持ちあげるバネの取り付け部分が壊れていたため、新しいものに交換、かかった時間はわずか5分でした。
段差で転んでからブレーキの調子が悪くなったという男性も訪れました。
男性客:
「先日もタイヤ交換とペダルを。飛び込みで毎回来てしまうんですけど。すごく親身になっていただいて、分かりやすく教えてくれるので」
修理が終わると、嶋崎さんは「段差はそのまま入ると危険なので、お尻を浮かし前輪を上げて乗り越えて」と乗り方のコツもアドバイス。ただ修理をするだけでなく、安全に乗ってもらうよう、声をかけることを大切にしています。
嶋崎さん:
「普段、僕らもメッセンジャーで街中走ってるので、アドバイスはできるだけするようにしています」
メッセンジャーとして日々自転車に乗っている経験が、修理にも生かされているという嶋崎さん。日によっては出張修理の依頼も入ります。
荷台の付いた自転車に工具を積み、中区を中心として、店から4キロ圏内をめどに依頼を受けます。この出張修理が買われ、名古屋のシェアサイクル「でらチャリ」の定期点検を、月に2度任されています。
市内12か所に停めてある、約60台の点検と修理です。
■ビジネス書類から弁当へ…コロナ禍で広がる自転車便サービスの可能性
嶋崎さんは、27歳の時に勤めていた自転車販売店を辞め、自転車好きが高じて今の会社を始めました。そして、メッセンジャーサービスを始めたのには、もう1つの理由がありました。
嶋崎さん:
「未来を考えた時に、それ(車社会)が本当に持続可能なのかって…。自転車が活躍している街の方がすごく有機的に見えるので」
車を中心とした社会への違和感。未来への環境を見据えての選択でした。
コロナ禍でビジネス便は大きく減りましたが、新しく始めたのが名古屋市西区にある円頓寺商店街からの依頼で始めた、弁当のデリバリーサービスです。
注文を受けた飲食店を回り、お客さんへ届けます。ビジネス文書と違い、お弁当は届けた時にお客さんの笑顔が見られる分、やりがいを感じるといいます。
嶋崎さん:
「自転車での仕事の可能性は広がっているな、と常々感じているので、これからも続けていきたいですね」
■注文の本を信頼できるメッセンジャーが手渡しで届ける…届けるのは「モノとキモチ」
嶋崎さんはその他にも新たな展開を始めていました。名古屋にある古本の店「シマウマ書房」とタッグを組んだ、本の宅配便です。
ネットで注文を受けた本を、1回何冊でも送料350円で即日配送するサービスです(対象エリアは名古屋市内)。
シマウマ書房の店主は、「書店が厳選したおすすめの本を、信頼できるパートナーのメッセンジャーが依頼主に手渡しすることが大切なポイント」と話します。
“顔の見えない人から買い、知らない人が届ける”ではなく、 顔の見える関係の中で、「人と人を繋ぐ」。嶋崎さんが、自転車便の仕事をする中で一番大切にしてきたことです。
嶋崎さん:
「自分の住んでいる街は、人と人が繋がっていてほしいなって。今回も、自転車で仕事する可能性を広げてくれるので、すごくうれしいですね」
嶋崎さんは今日も、”モノとキモチを届けます。