――本作について、どんな印象を持っていますか?
時宜を得ているというか、今の時代ならではの内容だと思います。コキン法が施行されたのは僕が30代になったばかりの頃で、そういう決まりができたからとはいえ、すぐに世の中が変わるわけでなく、施行された最初の世代の人たちが試金石になっていますよね。どんな制度もそうだろうし、最初っていうのは大変なものです。"コキン法第1世代"の現状をテーマにするなんて、いいところに目をつけたと思いますよ。
――今では男女雇用機会均等法は当たり前のものですが、そう思えるようになるまで相当な時間がかかりましたからね。
何事も一般化するまで時間がかかるものです。そういう意味でも、『ノンママ白書』のようなドラマが登場するまで30年という時間が必要だった、ということかもしれませんね。
――佐戸井さんが演じる木村は、コキン法とともに歩んできた土井をどう思っているのでしょうか?
僕としては、評価していると思って演じています。有能な部下だ、と。土井が微妙な立場に置かれていることは分かっているけれど、仕事は出来るから何とか頑張ってほしいはずです。そうは見えないかもしれませんが、木村は木村なりに土井に気も遣っていますし(笑)。ただ、木村は先陣を切って冒険するタイプではない。だから土井の部長抜擢も機が熟すのを待っていたんじゃないのかな。
――土井を買っているからこそ、厳しいことを言っていると?
木村は土井を相当買っていると思いますよ。とは言え、土井は可愛いけれど、それより可愛いのは自分、というだけのことで(笑)。それで、『何とかみんなとうまくやってくれ』なんです。
――佐戸井さんはこの作品の中で、どんなポジションを担えたら、と思っていますか?
メインとなるのはバーの場面で、職場のシーンはポンポンと挿入される"点描画"みたいなもの。その点のひとつとして、部下たちとは一味違った形で土井を悩ませる存在を最後までまっとうしたいですね。
――ところで佐戸井さんは、本作の脚本を手掛ける伴一彦さんと長いお付き合いだとか。
そうなんですよ。僕は劇団(夢の遊眠社)育ちで、劇団以外の仕事を始めたのが30歳近くになってからのことだったんです。当時、僕をおもしろがって使ってくれた人たちがよく起用していたのが、伴さんでした。当時の伴さんが実験的なものを書くと、劇団出身ということで尖がっていると思われたのか、僕にもよく声がかかったものです。とても懐かしくて、いい思い出です。
――出会いから30年経って、伴さんは「ノンママ白書」のような社会的にも意味のある作品を書いているんですね。
出会った頃の伴さんも今回と同じように、そのときどきの社会問題を物語の中にしっかりと織り込んでいましたよ。ただそれを前面に押し出さないだけのことで。会話の中で『いまの社会ってこうです』『こんなことが起きています』ということをチクリと入れてくる。その切り取り方の鮮やかさが、伴さんの書くもののおもしろさですね。『ノンママ白書』も『相変わらず鋭いな、伴さんは』と感じさせるところが、随所にありますよ。
――佐戸井さんは土井よりさらに上の世代ですが、アラフィフ世代に必要なものは何だと思いますか?
世の中、そう簡単に変わらないけれど、20代で社会に出たばかりの頃は、『俺が、私が世間を変えるんだ』と思っていた人もいるんじゃないですか。僕もそんなことを考えていましたが、ペーペーにできるわけがない。厳しい現実に何度もぶつかり、世の中の流れやシステムっていうものをだんだんと理解して、『実際はこんなものか』と思うようになってしまうけれど、40代ぐらいになると、ゆっくりながら社会っていうのは変わっていくものだと気づくんですよ。それで50代になったとき、どうすればいいのか。まあ、それなりに社会の中で偉いポジションに就いているでしょうから、何か変えたいものがあるなら実行する強さを忘れずにいて欲しいですね。このドラマだと、土井がそういうことをしようとしている人ですから。
――アラフィフ世代だからこそ、攻めの気持ちですね。
出る杭は打たれやすいので、そのバランスもお忘れなく(笑)。会社での出世という面だけでいえば、木村はうまくいった人ですよね。彼の中に、『俺が会社を変えてやる』という考えがあるのかと言えば、はなはだ疑問ですけど(笑)