コロナ禍以降で相談増…「DV被害者に“住まい”を」建設会社社長が相場より安く賃貸 地域を巻き込み支援へ
コロナ禍で社会や家庭の環境が大きく変わる中、DV=ドメスティックバイオレンスの相談件数が年々増加しています。DV被害者の支援をする名古屋のNPO法人は、住居だけでなく、地域と連携して食糧や教育などのサポートもしています。
■ストレスが貯まり子供や弱い立場の人がはけ口に…過去最多となったDVの相談件数
2人の子供を育てる外国籍のシングルマザーのソフィアさん(仮名)は、日本人の夫から受けた精神的なDVが原因で、2021年に他県から名古屋市に逃れてきました。
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ソフィアさん(日本語訳):
「夫との関係が良くなかった。直接暴力は振るわれなかったが、時々3日間(家に)帰って来なかったり…。疲れてしまったし、つらかった」
今、彼女のようにDV被害を訴える女性が増えています。警察庁によるとDVの相談件数は年々増加していて、2021年には過去最多の約8万3000件に達しました。その4分の3が女性からの相談だといいます。
アートを通じてDV被害者などの心のケアをする団体の代表・桜輝さらさんは、増加の背景には新型コロナの影響があると指摘します。
桜輝さらさん:
「(コロナで)家にこもりきりになったり、職を失ったり…。それで上手くストレスを発散できずに、子供や弱い立場の人がはけ口になってしまう」
被害者からの相談を受けている桜輝さんですが、自身も…。
桜輝さん:
「娘が成長するにつれて(夫から)私への暴力や暴言が激しくなって…。顔も体中もあざだらけで職場に行けなくなったり…」
桜輝さんは夫からDV被害を受け、娘と共に名古屋に移り住んできました。自分の経験から、DVの被害者にとって最も大きな課題となるのは「住まい」だと話します。
桜輝さん:
「住む場所が一番大事。私の場合もですが、何も持たずに逃げてくる(人もいる)。最初は実家に逃げたんですけど、(夫は)実家知っているじゃないですか」
桜輝さんは、何より安心安全な居場所を確保することが大切だと話します。
■住所がないと仕事も見つからない…DV被害者に「住まい」の支援をするNPO法人
DVの被害者に「住まい」の支援をする名古屋市東区のNPO法人「LivEQuality HUB(リブクオリティ ハブ)」。
LivEQuality HUB代表の岡本拓也さん:
「一番大きなきっかけは、新型コロナ。女性が住まいを失うほどの苦境に陥っている記事を目にしました。経営していた建設会社の強みをいかして、何かできることはないかと」
名古屋の建設会社「千年建設(ちとせけんせつ)」の社長でもある岡本さんは、建設会社のノウハウをいかして、ソフィアさんをはじめ、生活に困っているシングルマザーらに相場よりも安く住まいを貸しています。
岡本さん:
「こちらオートロック。オートロックがあると、DVから逃げてきた人も安心して住める」
名古屋市内に43部屋を用意。家賃は相場より1万円以上引くケースが多いといいます。現在、ソフィアさんのようなDV被害者ら4世帯11人が入居しています。
また、逃れてきた被害者は職についていない場合も多いことから、家賃を抑えるだけでなく、初期費用の分割払いなどにも柔軟に対応しています。
岡本さん:
「住まいがないと、履歴書にも住所が書けないので仕事が見つけにくい。区役所に行くと、その区に住所がないとサポートしづらい。仕事がない、行政サービスが受けられない、住まいがないという負のサイクル」
■孤独にならないためには“地域とのつながり”が必要…地域と連携し「教育」や「食糧」の支援も実施
しかし、「住まい」さえ確保できれば全て解決というわけではありません。
岡本さん:
「それまでのコミュニティから離れて、つながりのない中で生活していくと、どんどん孤独になる。教育支援や食糧支援を提供してくれる人と連携して、色んなサービスを提供している」
名古屋市中区にある「久遠寺」。岡本さんは、被害から逃れて見知らぬ土地で新たに生活を送る彼女たちに必要なのは、“地域や人とのつながり”だと考えました。
久遠寺の副住職:
「お寺のお供え物を仏様のおさがりとして頂戴して、生活困っているご家庭におすそ分けする」
近所のお寺にも協力してもらい、お供え物のお菓子などを入居する彼女たちのために分けてもらっています。
行政や地域の団体とも連携して支援を続ける岡本さんは、食べ物を寄付する以外にも、就職や教育をサポートする活動も行っています。
■一人でも多くのDVの被害者に手を差し伸べたい…地域を巻き込み幅広い支援を続ける
夫から精神的なDVを受け逃れてきたシングルマザーのソフィアさんは、名古屋に来たばかりの時は頼れる人もおらず孤独でしたが…。
NPOのスタッフ:
「『ファイブパーソン』。日本語で何て言いますか?」
ソフィアさん:
「5にん」
ソフィアさんは、岡本さんたちの紹介で知り合ったNPOから日本語を教わったり、岡本さんの団体のスタッフに親子で動物園に連れて行ってもらったりと、様々な支援を受けることで、不安無く暮らせるようになったといいます。
ソフィアさん(日本語訳):
「優しい日本人がたくさんいて、助けてもらいました。友達もできました。子供はお皿を洗ってくれたり、掃除機をかけてくれたり、疲れているときは『ママ大丈夫?』と声をかけてくれる優しい子。子供たちと一緒にいると幸せ」
岡本さん:
「入居してきたときは疲弊していて笑顔も少なくて…。それが、お会いするたびに元気になっていって。取り組みの輪を地域にも広げて、一人でも多くの母子の方に手を差し伸べていきたい」
岡本さんは、地域を巻き込んで幅広く支援することで、被害者を継続的に支える仕組みを作りたいと考えています。
岡本さんのNPO法人「LivEQuality HUB」は、DVの被害者に限らず、生活に困窮し住居探しに困っている女性からの相談を受け付けています。