スマホなどを使いながら車を運転する「ながら運転」は2019年12月から罰則が強化されましたが、それでも「ながら運転」による交通事故は毎年1000件以上発生しています。「ながらスマホ」について研究する専門家のもとを訪ね、その危険性を実際に体験してきました。

■「ドラクエウォークをしていた…」名古屋市西区で男性が車にはねられ死亡

 2022年5月31日、名古屋市西区で横断歩道を自転車で渡っていた55歳の男性が、車にはねられ死亡しました。車を運転していた高校教師は取り調べに対し、運転中にスマホのゲームアプリ「ドラゴンクエストウォーク」をやっていたと話しています。

 また、衝突した地点より前にはブレーキの跡はなかったということです。

『ながら運転』厳罰化へ…トラックの“ポケモンGO運転”で息子失った父親「危険運転致死傷罪の適用を」

 ドラゴンクエストウォークはスマホの位置情報を利用したゲームで、ウォークと名前についているように、実際に歩くとゲーム内のキャラクターも歩きます。これが現実の地図と連動していて、移動しながら敵と戦ったり、目的地に向かったりするゲームです。

 2016年には、愛知県一宮市で横断歩道を渡っていた当時9歳の男の子がトラックにはねられて死亡する事故がありました。運転していた男はスマホのゲームアプリ「ポケモンGO」をしていました。

 こうした「ながら運転」による事故の増加を受け、2019年12月から罰則が強化されました。運転中に画面を見たり、通話したとき、6カ月以下の懲役、または10万円以下の罰金、違反点数は3点です。さらに事故を起こした場合は、1年以下の懲役、または30万円以下の罰金に加え、一発で免停になります。

 法改正により事故の数自体は減少傾向にあります。警察庁のまとめによると、罰則が強化された翌年から、「ながら運転」による交通事故の発生件数はおよそ半分に減少しました。

 それでも毎年1000件以上起きているのが現状です。

■「ながら運転」の危険性 「運転中は手元にスマホを置かないことが重要!」

「ながら運転」の危険性を実際に体験してきました。

 伺ったのは、愛知県蒲郡市にある愛知工科大学。「ながらスマホ」の危険性を研究する小塚一宏名誉教授を訪ねました。

 スマホを見ながら運転すると、どのような影響があるのでしょうか。目線の動きをチェックするカメラを装着し、車の運転を体験できるシミュレーターを使って実験します。

 実際にドラクエウォークを操作しながら運転してみると…交差点で飛び出してくる子供に気付かず、危うくぶつかりそうになりました。

(リポート)
「前を気にしているつもりでも、全然気が付かないです」

小塚名誉教授:
「ながら運転をしていると、気が付いたら(人が)目の前にいて、止まりようがないからひいてしまう」

 画面の黒い点は、この時の視線の動きを表したもの。長い時は5秒ほどスマホに集中してしまい、目の前の道路には視線が向いていないことがわかります。

小塚名誉教授:
「今も(子供を)追えていないですよね。たまたま前を向いた時だけ視野に入るだけで」

 時折、前方を確認してはいるものの、左右の確認ができず、視線がスマホに行き、子供が飛び出す瞬間を見逃していました。

 通常運転した場合は、視線は飛び出してくる女の子をとらえ、ブレーキを踏んで直前で停車できました。

 二つの動きをみると違いは明らかで、「ながら運転」をしているときに注意が散漫になっているのがわかります。

 また、スマホで文字入力しながら運転してみても、同じように視線はスマホの画面に集中していました。

小塚名誉教授:
「人間の脳は2つ以上のことを同時に認識したり処理できません。(ながら運転は)運転しているという重要なことが頭から抜けてしまっていて非常に危険です。ぜひやめていただきたい」

 今回事故を起こした男が運転中にプレイしていたドラクエウォークは、ながら運転をできないように、一定の速度を超えるとプレイに制限がかかります。

 時速およそ50キロで走っているときには、モンスターが全く現れなくなりました。しかし、信号待ちや渋滞などである程度まで速度が落ちると、再びモンスターが現れプレイができてしまいました。

小塚名誉教授:
「(時速20キロでも)2~3秒で10~15メートル進みますから、その間は画面だけ見ていると、そこに横断歩道があったりすれば(人を)ひいてしまう。(スマホから)音が出たり着信音が出たりすると手が伸びてしまうから、(運転中は)操作できる所に置かないことが重要です」

■歩きスマホでも事故多発 画面を凝視すると目の動く範囲は20分の1に

 小塚名誉教授は、歩行者の「歩きスマホ」にも警鐘を鳴らしています。

 東京消防庁によると、歩きながらや自転車に乗りながらのスマホによって事故が起き、救急搬送された人の数は、東京だけでも毎年数十人います。

 小塚名誉教授は歩きスマホの実験も行っています。

 こちらは、通常時と歩きスマホの時の視線の違いで、水色の線が視線を表しています。画面を凝視している状態では、通常時より目の動く範囲が20分の1になってしまい、前方へは時折先行する人を見る程度で、周りに視線が向けられていない危険な状態です。

 歩行中は気が緩んでいるため、運転時よりもさらに思わぬ事故が起こりやすいということです。