障害あっても個性発揮し輝きを…障害者の就労支援施設から『七色のラスク』菓子工房新設し工賃面の改善も図る
愛知県岡崎市で障害のある人たちの就労を支援する施設を運営する女性が、やりがいと経済的自立を両立しながら働ける環境を作ろうと奮闘している。2022年10月から新たに手掛けた7色のラスクで、施設の利用者がやりがいを持ち始めている。
■息子の障害を知り「目の前が真っ暗に…」 障害者の就労を支援する事業所を設立した女性
愛知県岡崎市にある就労支援施設「アルクス」。
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障害などのため一般企業で働くことが難しい人たちに、軽作業の機会を提供する「就労継続支援B型」の事業所だ。
代表の石塚玲子(いしづか・れいこ)さんは、2020年にアルクスを立ち上げた。
きっかけは、石塚さんの二男、昌幹(まさみき 27)さんだ。
昌幹さん:
「ところでパセリ食える?パセリ食おうとしたんだよ。お母さんパセリ食べる?」
石塚さん:
「食べるよ、おいしいね。パセリおいしいね、庭に植えるか」
石塚さん:
「(スタッフに)ずっとしゃべっていますね」
昌幹さんは3歳の頃、自閉症と診断された。
石塚さん:
「(障害を知った時は)目の前が真っ暗になったというか…。まだインターネットも普及していない時期だったので、どうしていいかわからなくて」
当時は自閉症の情報も少なく、昌幹さんからは一時も目を離せなかったという。
石塚さん:
「(写真を示して)お茶を畳の上にこぼして、その様子を集中してみている。今思えば、自閉症の傾向が出ていたんだなと思って」
昌幹さんをきっかけに障害者福祉について勉強を始めた石塚さんは、そこで障害者の経済的な環境を知った。
石塚さん:
「(障害のある子供の)お母さんたちのお話を聞いているときに、年金で生活するのがいっぱいいっぱいだと。子供たちが好きなものを買ったりとか、好きなところに行くとか、そういった楽しみのお金が全くないと」
昌幹さん:
「本とDVD買いたい」
石塚さん:
「本とDVD買いたいか。お手伝いしてくれたらね」
昌幹さん:
「本とDVD買いたいよ」
石塚さん:
「クリスマスまで買えません」
一般的な「就労継続支援B型」事業所では、利用する障害者の平均時給はわずか222円。年々上がってはいるものの、最低賃金の4分の1にも満たない。
石塚さん:
「工賃面でも内容でも、利用者たちがキラキラ輝いて、ここに来るのが楽しいと、そう言ってもらえるような仕事を増やしていきたい」
障害者がやりがいを持って働き、経済的に自立できる環境をつくりたいと、アルクスを設立した。
自動車部品の製造などを請け負っていたが、コロナの影響で仕事がなくなり、収入はほとんどゼロになった。
■農作業で余った野菜を「何とかして工賃に」… 加工して新たに立ち上げたカフェで提供
そうした中で手掛けるようになったのが、野菜作りだ。
石塚さん:
「何をやろうかという時に、借りていた畑で農作業をやるようになりました。そうすると、今度一斉にナスやトマトができあがるんですが、余ってしまってどんどん劣化して…。私としては、何とかして工賃につなげられないかなということを思っていました」
農作業を手伝った際、出荷できず余った野菜。
捨てられるはずのものを活かして、少しでも収入を増やそうと2021年、カフェ「ピクルスcafeアルクス」を始めることにした。
店はJAの施設「ふれあいドーム岡崎」の一角を借り、アルクスの利用者が店を手伝う。
アルクス利用者の男性(19):
「お待たせしました。ピクルスサンドイッチでございます」
一番人気は、ピクルスサンドイッチだ。
石塚さん:
「畑の野菜が一度に採れたときに、ずっと鮮度は保てないので、なんとか利用者さんの工賃に無駄なく結びつかないかとピクルスの加工を考えました」
カフェでは、アルクスの利用者が作った“コーヒーかす”を使った消臭剤や、米袋を再利用したエコバッグなども販売している。
女性客:
「すごく丈夫そう。インパクトある。もっとそういう場が増えたらいいかな。私も直接障害者の方と触れ合う場がないので」
利用者のやりがいを追い求めながら、少しずつ工賃も上がっていった。
Q仕事は楽しいですか?
アルクス利用者の男性(19):
「(机を拭きながら)楽しいです」
スペースを貸した店長:
「実際に施設のに伺って作業風景を見せていただいて、非常に真面目でしっかりやっているなという印象がありまして。これならうちの店でも、お客様に満足していただけるんじゃないかなと思った」
■約500万円かけお菓子工房を開設…利用者の一言から始まった「七色のラスク」作り
石塚さんはさらに、利用者の一言をきっかけに事業を拡げることにした。
石塚さん:
「レクリエーションでお菓子を作る機会がありまして、その時に愛ちゃんが『お菓子作りが仕事でできたらいいな』ということを言ってくれて…」
アルクスの利用者、神谷愛(かみや・あい 25)さん。
知的障害があり、幼い頃に遭った交通事故が原因で左手がうまく動かない。
愛さんは、昔からお菓子作りが大好きだった。もともと通っていた別の施設ではお菓子作りをしていたが、そのお菓子部門が閉鎖し、家に籠るようになったという。
そこで石塚さんが思いついたのが、“七色のラスク作り“だった。
石塚さん:
「カフェで、モーニングとかサンドイッチにしたパンが余ってしまったと。それを切ってラスクにして、お菓子として売れないかと」
愛さんをはじめ、障害のある人でも、個性を発揮しながら輝いてほしい。そんな思いから2022年10月、作業所の中に新たに「お菓子工房」を開設した。
石塚さん:
「内装の改装と備品などすべて合わせて、500万円ちょっとかかりました」
費用の一部はクラウドファンディングで捻出し、完成した。
■七色ラスクで利用者にも変化が…「個性が合えば楽しそうに仕事できる」
色鮮やかな七色のラスクを作る工程は、パンを切ってクリームを塗る、飾りとなるドライフルーツを乗せるなど、比較的単純な作業ばかりだ。
障害がある人でもできる作業で、それでいて華やかに見えるように工夫されている。
職員の女性:
「愛ちゃん上手に並べられたね」
愛さん:
「並べました」
本格的にお菓子作りを始めるようになると、愛さんに変化が表れた。
職員の女性:
「愛ちゃん、じゃあカボチャの種を用意してもらっていいですか」
愛さん:
「はい」
職員の女性:
「どこにあったかな」
愛さん:
「覚えてます」
職員の女性:
「ピンポーン!当たり。やったー。これで準備バッチリ?」
愛さん:
「バッチリです」
職員の女性:
「はい、ありがとうございます」
石塚さん:
「職員もあいちゃんがすごく変わったと、積極的に自分から動いてくれるようになったと。表情が、今は全く変わって、生き生きやってくれています」
石塚さん:
「お菓子作りするようになって、どうですか?」
愛さん:
「一生懸命テキパキとやっています」
石塚さん:
「頑張っているね」
愛さん:
「頑張ってます」
愛さんたちの力で完成したラスク。植物由来の色素を使った、見た目にも体にも優しい色合いだ。
石塚さん:
「『アルクス』という名前がそもそも、虹を意味するラテン語を由来にしていまして、利用者さんの個性を虹の七色に例えて、個性を十分に活かして輝いてほしい。その気持ちをお菓子に込めたのが、七色のラスクです」
まずはクラウドファンディングに協力してくれた支援者たちに、返礼品として贈られた。
愛さん:
「クラウドファンディングご支援ありがとうございました。返礼品です」
支援者の男性:
「ありがとうございます。カリカリしていて、めちゃおいしいですね。カボチャの味する、ちゃんと。おいしいです。ありがとう」
愛さん:
「ありがとうございます」
石塚さん:
「うれしいね、愛ちゃん。自分で作ったもんね」
愛さん:
「とってもうれしいですよ」
アルクスのある利用者は、活動を支える父親に贈った。
アルクス利用者の女性:
「ご支援ありがとうございます」
女性の父親:
「ありがとうございます~、わぁビックリだなぁ。(スタッフに)この子が幸せならいいと。楽しくやれればいいなと思っています」
障害者にも仕事のやりがいを、そして自立を。石塚さんの想いは、少しずつ実を結び始めている。
石塚さん:
「おいしいお菓子をここで作って販売して、工賃を上げていきたいというのが目の前にある目標。それぞれの個性がうまく仕事に合えば、こんなに楽しそうに仕事ができるんだなということを、逆に教えてもらっているっていう感じですね。その中で、作業する技術とかスキルが向上していって、自立につながっていったらいいなと思います」
2022年11月2日放送