岐阜県高山市の奥飛騨温泉郷に2023年4月、民宿を改装したカフェ&バー「たなごころ」がオープンしました。店を開いたのは、自らを「のんべぇ女将」と呼ぶお酒が大好きな明るい女性です。「観光客と地元の人がつながる場所」を作りたいという女性の思いに迫りました。

■地域の人がつながる場所を…お酒大好き“のんべえ女将”が始めるカフェ&バー

野沢陽子さん:
「テイクアウトだけは、1種類って決めて出すようにしようと」
「そこの方がいいかも、決まり!」

手順を確認したり、ドリンクや食事のメニューを試食したりする女性たち。4月11日、「たなごころ」のオープニングスタッフが研修会を開いていました。

【動画で見る】民宿を改装して飲食店に…『のんべえ女将』が作りたかった“人がつながる場所” 観光客と地元の人たち集う

中心にいるのは、53歳の野沢陽子(のざわ・ようこ)さんです。

野沢さん:
「すごいのよ、このドリンクメニューが。たぶん飛騨で一番ぐらいの量入れます。こだわりです!“のんべえ女将”なので、そこは強く」

陽子さんの店「たなごころ」は、昼はカフェ、夜は酒場になるカフェ&バー。

地酒からワインにリキュールと、“のんべえ女将”こだわりの酒が揃います。

長いコロナ禍で一時は落ち込んだ観光地・奥飛騨。

今後はインバウンドの回復で素泊まり需要も見込まれる中、1泊2食の民宿を一念発起して改装しました。

野沢さん:
「地元の若い方にも溜まり場になって欲しいので、若い方が好みそうなカクテルも結構な数を準備しています」

地元の人から観光客まで、若い人も年配の人も。陽子さんが「たくさんの人が集まる場所にしたい」というのには、理由があります。

野沢さん:
「元々ここで、生まれも育ちも奥飛騨で。9割の方が『婿取りですか?』というんですけど、実は嫁でして」

奥飛騨で生まれ育った陽子さん。

33年前に20歳で嫁いだ民宿で接客をするうち、観光客も地元の人もつながる場を作りたいと思うようになりました。

野沢さん:
「民宿という宿の形態もあったんですけど、お客さん同士をつなげるのが楽しくなってきて、来年もこの宿で会いましょうっていうお客さんも増えてきたときに、もっと地元の人を巻き込みたいなと思うようになりまして」

10年以上前から、「人がつながる場所」を夢見てきました。

■「誰も来ないんじゃ…」 明るい女将も開店直前は不安に

 4月13日、お世話になった人たちを招待するプレオープンの日です。

野沢さん:
「みんなを迎えるのが緊張する。知った人ばかりなんで、どんな反応してくれるのかなっていう」

観光協会の関係者をはじめ、地元の人が次々に来店しました。

野沢さん:
「本日は、お忙しい中お集まりいただきまして、誠にありがとうございます。個人的にも仲良くしていただいて…ちょっと待って…」

あいさつに立った野沢さん、この日を迎えることができ、感無量です。

野沢さん:
「こういう挨拶することもないし、私が誰よりも奥飛騨が好きって知っているメンバーなんで、本当に応援してくれていたんで、うるっと来ちゃいました」

オープン2日前の4月16日の夜、野沢さんが訪れたのは、近所の飲食店です。

時には友達と飲んで騒いで。こうした時間が心の支えになっていました。

野沢さん:
「本当に毎日泣いていました。思っていたより、こんなに大変だったんだと。ずっと30年も調理経験もあったし、お客さんもお迎えしていたんですけど、ガラっとやること変えるっていったらこんなに大変なんだって。今度は全く別の、時間もどなたが何時に来るのか、実際に来てくれるのか、全く読めないじゃないですか」

予約が基本の民宿と違い、日々の客入りや仕入れの予測などは手探りで、経営者として、不安は絶えません。それでも、「夢」は目の前です。

野沢さん:
「オープンの日は誰も来ないんじゃないかって、そっちの方が不安なんですけど、それでも、逆に1~2人のお客さんにゆっくりおもてなしができたら、それはそれでいいし」

■地域の人も喜び…思い叶った「つながる場所」

 4月18日、オープン当日を迎えました。

野沢さん:
「いらっしゃいませ~。ありがとうございます!」

「お年寄り大歓迎」で、65歳以上はモーニングのセット料金100円が無料です。早速、近所の夫婦が来店しました。

女性客:
「ふわふわでおいしい」

野沢さん:
「よかった~。ちょっとパンにはこだわって」

笑顔の朝が「たなごころ」に広がります。

野沢さん:
「掌(てのひら)とか、合掌の『掌』って一文字で、たなごころっていうんですけど。手の温もりっておもてなしの意味で。11年前から決めていた」

女性客:
「どういう意味なんやろうって。辞書引いても載っていないし」

野沢さん:
「手の温もりでおもてなしして、地域の人とかを紡ぎたいっていう意味」

野沢さん:
「まずは一安心ですね。私の作りたかった場所である、皆さんが集まってワイワイガヤガヤっていう雰囲気も早速見ることができて感無量です。ちょうど桜がいい時やったねえ。今日に合わせて咲かせておきました(笑)」

この日の夜は2組の宴会もあり、店内はほぼ満席になりました。せわしなく動き回りますが、やっぱりそこは“のんべえ女将”。

野沢さん:
「お待たせしました~。じゃあ、いただきます」

ちゃっかり自分もビールをゴクリ。

気付けば店内は、陽子さんが思い描いた「人がつながる場所」になっていました。

男性客:
「好きだよ~。こういう店があるから、こうやってみんなが集まって来るんじゃないかなと思います」

別の男性客:
「毎晩、飲みに出歩けると、地域のためには最高だと思います」

また別の男性客:
「とにかくあの女将は起爆剤として、新平湯だけでなくて、みんなが期待しとる」

野沢さん:
「憩いの場ができてよかったなと思います。同じ地域に住んでいる方が、1年ぶりに顔見たなとか、そんな感じの方ばかりがみえたので、地域の交流が今少なくなっている中で、思った通りに進み始めているので、本当にうれしいです。今どこ行っても笑い声で、笑顔で、私の本当に作りたかった場所がようやくできたなって」

掌(てのひら)と書いて、「たなごころ」。

その温もりから生まれるおもてなしが、人と人とをつなぐ場所に。

名物女将の夢は、まだまだ始まったばかりです。

2023年5月2日放送