2016.01.19
- ぼたんと婚約していた当時、綱輝はかなり気取った人物でした。
- そうですよね(笑)。陽気に振る舞い、自信に満ちあふれ、それがちょっと鼻につく感じで。最初の登場場面は、僕なりの“綱輝像”を持って撮影に臨みましたが、西本監督から『綱輝は20代で社長になり、外見にも恵まれているし、とにかくすごい男なんだよ』と言われ、それを踏まえ演じて欲しいと、リクエストがあったんです。リハーサルを重ねる中で、『もっと自信たっぷりに』『もっと熱く』と言われ、最終的に婚約指輪をしていないぼたんに、『ゆ・び・わ。気に入らない?』という本番の問いかけになりました (笑)。
- 片岡さんが考えていた以上に自信過剰だった?
- 確かに、自分の思っていた以上でした。それに、ハイテンションという言葉とはまた違うんですよ。いかんせん、綱輝のような人物を演じるのは初めてなので、僕の中で馴染むまで時間がかかりました。
- 片岡さんはこの枠では「聖母・聖美物語」(2014年)に出演しています。前作で演じた峻は、ナイーブなキャラクターでしたね。
- 正直、僕の中では峻のような役のほうが、しっくりくる部分もあります。でも、綱輝は綱輝でとても新鮮だったんです。ぼたんと付き合っていたところは自信満々で、ぼたんを心から愛し、それを周りが引くくらいの重さで演じられたら、と思っていました。
- 記者は綱輝を見て、「ちょっとウザいかも」と思っていました(笑)。
- 本当ですか(笑)。僕自身、綱輝をウザい男にしたかったので、そう見えていたらうれしいですね。視聴者の皆さんに『何だろう、コイツは?』と思ってもらいたかったんですが、だからと言って、いかにもウザい演技をすればいいという訳ではないので、綱輝の言動をどう演じるか、ひとつひとつが難しかったです。台本を読み込んで読み込んで、綱輝の感情を自分の中に落とし込みましたが、それで感じたのは、綱輝は本気でぼたんを愛しているということです。だからぼたんに言ったセリフはどれも真実の愛を込めていました。
- ぼたんは綱輝を、全面的に受け入れてはいない気がしました。そんな彼女を綱輝は愛していた、と?
- ぼたんに会うまで綱輝は、自分になびかない女性なんているはずがない、と思っていたはずです。でも、ぼたんはそうじゃなかった。美しくて凛としていて、家柄も文句がない。結婚相手としてピッタリだし、彼女も僕ならOKだろうと思っていたのに、ぼたんが一向に振り向かないから、『絶対、ぼたんと結婚してやる!』と火がついちゃったんでしょね。それで気が付くと本気になっていて。
- そこまで愛したぼたんを失い、今度は富貴子との出会いがあったわけですが。
- ぼたんから富貴子さんに思いが変わる過程も難しかったですね。だって、あれだけぼたんを愛していたのだから、そう簡単に他の人に気持ちが行くわけがない。綱輝の心境の変化をどうにか成立させたい、と思っていました。最初、富貴子さんを見たとき、綱輝はただただ驚いて、『話がしたい』と思ったんじゃないでしょうか。心にあるのは興味ですよね。僕の中では富貴子さんがぼたんのお墓参りをしているところを見て、綱輝の“好き”という気持ちのスイッチが入ったと思っています。
- 綱輝が暴漢に刺され、入院中に富貴子がかいがいしく面倒をみてくれた時でなく?
- 富貴子さんがぼたんのお墓参りをしている姿に、『もうぼたんはいないんだ』と納得して、一人の女性として富貴子さんに向き合う気になったと思います。刺されてしまったところは、男なら好きな人にそんなぶざまなところは見せたくなかっただろうし、入院中の、田舎の両親とのやり取りも気取ったところがなく、以前の綱輝だったら、見られたくなかったはずです。綱輝は結果的に、富貴子さんにはいろんなものをさらけ出しているんですよね。
- その過程で、かつては気取っていた綱輝がピュアな青年に変化しているような気もします。
- もちろん、そこは意識している部分です。今回は綱輝を前編、後編に分けて演じている、というか。この作品はドロドロ系だとか、展開がスピーディーだとか言われていますが、どうして視聴者の皆さんを惹きつけているのかと言えば、話に親近感があるからだと僕は思っています。身近な物語だと思っていただくためには、インパクトのあるワンシーン、ワンシーンを見応えのあるものになるよう演じることに加え、演じている役の心の変化をしっかり表現することも大事だと僕は思っていて。今回はさまざまな出来事を経て、綱輝が愛する人のために真摯に生きる姿を、説得力を持って最後まで演じたいと思っています。
- 片岡さんは中島丈博先生の作品は初出演とのことですが、感想は?
- 最初の頃、綱輝のいないとこでぼたんや世奈子ママが彼の話をよくしていたんです。綱輝は自分がどう思われているか知らないけれど、僕自身は知っているわけで、それを意識せず演じるのが難しかったですね。セリフもあまりに印象的で大変でした。『頭がクラクラして、全身が波打ちそうだ』というセリフがありましたが、僕はそんな経験ありませんから (笑)。ただ、これまで感情がものすごく高ぶったことはありますし、それを言葉にするなら、こういうことなのかもしれない、という気がしています。
- ところで片岡さんは15年に30歳の誕生日を迎え、デビューアルバム「birth」を発表と、アーティスト活動も始めたそうですね。俳優としてだけでなく、ミュージシャンとしての顔も加わり、“表現者”として心境に変化はありましたか?
- それまで趣味程度に曲を作っていましたが、30歳になったのを機に、自作のナンバーを形にしようと決心しました。“二足のわらじ”という言葉がありますが、演技と音楽は僕の中で、表現方法として二つで一つのものだし、表現の幅が広がっているという実感もあります。音楽作りでもがき苦しんだことが綱輝を演じることにも役立っていて、音楽にここまで真剣に向き合っていなかったら、綱輝の複雑な心境を表現するのがもっと大変だったような気がしています。それに、綱輝を演じたことが楽曲作りにも反映していて、さっそく富貴子さんへの想いをテーマにラブソングを作りました。なかなか報われないので、嘆きのナンバーになってしまいましたが(笑)。岡田(浩暉)さんにも『崑一の曲を作ってよ』と頼まれ、『男の生き様』なる曲も作ったんですよ。