05 神保悟志さん(櫛山唯幸役)

――今の年齢だから演じられる役

 最初に今回のお話をいただいたとき、唯幸ってすごくおもしろい役だと思いました。ただ、冒頭のところですでに60代だったので、「まだ40代の自分に果たして務まるだろうか」とも思いました。実際に演じてみて感じたんですが、もし唯幸と実年齢に近い方が演じたら、これはキツいだろうな、と。唯幸はとにかく激しいんですよ、言動が(笑)。だから年配の方には難しい役なのかもしれませんね。それともう一つ。演じてみると、とにかく楽しかった。その一言に尽きますね。男として見ると、自分の思うままに生きているところなんかは、ある意味、うらやましくもあります。普通に考えるとこんな人いませんから(笑)。とは言え、もしかしたらこの作品の時代設定である昭和50年代の最初の頃だったら、唯幸みたいな人って存在したかもしれませんよね。地方の実力者で財力もあって。都会とは一味違う年の取り方というか。

 唯幸は60代とはいえ精気ハツラツなので(笑)、今の言葉で表すなら、“肉食系男子”の代表という感じをまず大切にしました。セリフも結構言いやすかったですよ。標準語だったら、唯幸のセリフってあまりにえげつなく聞こえてしまう危険性もありますが、高山の言葉で言うと、スッと耳に入ってくるし、説得力もより増す気がしています。今回は最初から自分の中に“リミット”というのは設けてないんです。行けるところまでガンガン演じるつもりです。それに唯幸ならそういうことも許されるでしょうから。

――女性から見た理想の男性?

 星田(良子)監督とご一緒するのは今回が初めてですが、女性の監督が中島(丈博)先生の描く世界をどんな風に表現するのか、非常に楽しみでした。それは唯幸に関しても同じで、これだけ激しい人物をどう演出するのか、興味深かったです、実際に映像になったものを見たら、唯幸がとてもチャーミングだったんです。「女性の視点に立つと、唯幸ってこんな風に映っているんだ」と参考になりました。これはあくまで僕の意見ですが、唯幸に関して星田監督は、「男はこうあるべき」と思っている部分があるかもしれないですね。僕だってそう思うところはあります。世の男性は唯幸に学ぶべきところは多々あるんじゃないでしょうか。だって「俺について来い」って堂々と言い切っているでしょ。男はそれぐらいじゃなきゃダメ。とは言いつつも、僕自身も唯幸ほどのたくましさは持ってないですけどね(笑)。

 桜子は唯幸の計画通り、雄一と結婚しましたが、台本を読んでの最初の感想は、「唯幸、すごいな」でした(笑)。自分の子供より年の離れた娘を気に入り、自分のものにするために、まず息子の嫁にする。そんなことまず考えないし、ありえませんよね。その行動力やエネルギーはすごいですよ。欲しいものはとにかく欲しい。そのためなら手段は選ばないし、決して諦めない。まさに「THE中島ワールド」の住人と言えるでしょうね。僕は「さくら心中」において、唯幸ってこの作品の世界観を支える大切な柱の一本だと思っています。「演じさせていただきます」という気持ちで取り組んでいますが、少しでも中島先生の書くもののおもしろさを忠実に再現していきたいですね。もう、台本が本当におろしろいんですよ。台本もおもしろければ、唯幸という役もひたすらブッ飛んでいておもしろい(笑)。どうかこの作品の持つ魅力やおもしろさが、視聴者の皆さんにストレートに届きますように、と願っています。

 最初に台本をいただいたとき、ドラマの始まりは文芸調というか、どこか格式の高いところもありましたが、僕は「騙されないぞ」と思っていたんですよ(笑)。中島先生がお書きになるんだから、このままで済むはずがないだろうと。そうしたら本当にそうでした(笑)。今後さらに、驚きの展開が待ってますから楽しみに待っていて欲しいですね。

――体は疲れようと、気持ちにはハリが

 僕は中島先生の「牡丹と薔薇」にも出させていただきましたが、その後、妻(鮎ゆうきさん)も先生の作品「麗わしき鬼」「偽りの花園」に出演させていただき、当時は妻からいろいろと質問されたものです。僕がまず言ったのは「疑問や迷いを持たず、役をまっとうするように」ということ。「このセリフ、どう言えばいいんだろ」と思った時点で、迷いがセリフに現れ、作品の世界がガラガラと崩れてしまいます。自信を持って、ボンッとぶつけなきゃダメなんですよ。唯幸もまさにそういうところが大切な役ですよね。撮影が終わると、確かに体は疲れているんです。でも気持ちは違いますよ。唯幸はエネルギッシュだし、自分を信じている男なので、爽快感やすがすがしい気持ちさえ感じながら、撮影所から帰ることが出来ています。

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