09 中澤裕子さん(高倉明美役)

――明美の行動は理解出来ます。でも…

 台本で明美のところを読むと、激しいシーンや罵倒する言葉など、すごく怖かったんです。女性というより、もう“女”って感じで。ただ、明美が登場するまでの話の流れや、明美が登場してからの展開を考えると、こんな風に彼女が壊れてしまったことはまったくもって理解出来ます。とは言え、明美のように全ての感情を表に出していいかどうかとなると話は別ですよ(笑)。

 この作品に出てくる女性って、誰もが持っている裏の顔がそれぞれに描かれていると思うんです。私は明美を演じたからそう感じたのかもしれませんが、桜子さんも秀ふじさんも、明美ほど憎しみを表に出さない分、“性悪”だと思いませんか?(笑) 視聴者の方の中には、明美が可哀想と思ってくださる方もいるでしょうか。それは、自分ができないような行動を明美が100%の力で思いっきりやっているからだと思います。実際に演じると、ひたすら切なくて、こんなにも苦しいのか、というくらい辛かったですけど。プライベートでこんなにも感情をぶつけることってまずないし、10人女性がいたら、10人とも明美ほど激しく生きてないと思うんです。人は何かしら我慢してますからね。そこまで追い込まれた明美って…。まあ、自分で自分を追い込んだ部分もありますけど、比呂人さんがもう少し、しっかりしてくれていたら、という思いも正直あります。

 撮影中に比呂人役の徳山さんとお話ししたことがあるんですけど、徳山さんは「しょうがなかったんや、この選択しかなかったんや」とおっしゃったんです。比呂人の行動は優しさだとも言ってましたが、「桜子やさくらを守るには」とも言われまして…。明美役としては「じゃあ、明美は!?」と思いましたが(笑)、やっぱり男性ってダメなところもズルいところもありますよね。

――撮影中はひらすら悲しかったです

 もし自分の身近に明美のような女性がいたら、「やめなー」って言ってあげます。明美の悲劇は、周りに相談する人が誰一人いなかったってことでしょうね。自分の中だけで、もんもんと悪いほう悪いほうに考えるのみで。高山に来てからの明美って、誰からも愛されず、求められず、必要とされず、あまりに悲し過ぎですよ。多分、彼女には家族もいるんでしょうが、比呂人のことで頭がいっぱいになってからは、身内も二の次になったんでしょうね。私は誰か一言でも「明美、間違っているよ」と諭してくれる人がいたら、こんなことにはならなかったと思うんですけど…。

 明美を演じていた一カ月半は、私自身もただただ悲しかったです。客観視というのが出来なくて。少しでも私情が入ってしまうと、明美の生き方がやりきれなくなってしまうんですよ。だからひたすらひょう依していた感じです。現場でなくても常に明美と隣り合わせで、心が軽くなる瞬間がなかったんです。家にいても急に泣けてきたり、不安になったり。こんな経験初めてでした。これまで私はいろんな作品に出演させていただきましたが、明るい役が多かったんです。もしかしたら、そのとき演じている役の影響を受け、いつも以上に明るくなっていたのかもしれませんが、こんなにも自分とかけ離れた役を演じたことがなかったので、役が常に自分の中にいることに今回初めて気づきました。部屋で一人、セリフの練習をしていても、明美の恋愛感が彼女のものなのか、自分のものなのか分らなくなってきてしまったんです。演技に対して、新たな発見が出来たことは本当に勉強になりました。

 撮影に入る前、プロデューサーや監督から「相当な覚悟で演じてほしい」と言われ、私自身もそのつもりでこの役に挑みました。もしかしたら、今まで私を応援してくれている方の中には、“引いてる”方もいるかもしれませんよね。でも今回はこれだけの役だったんだから、驚かれてもいいと思ってます。ずーと、一度でいいからこういう破滅型の激しい女性を演じたいと願っていて、やっとその念願が叶いました。そりゃ、演じているときは苦労の連続でしたよ。桜子さんの美容室で鏡を割る場面も、そんなこと普段は絶対しないでしょ。今だに残響が残ってますから。撮影が全て終わった後、髪を切りましたが、どうにかそれで明美とさよならした感じです。

――監督からの贈り物

 劇中では誰からも愛されていない明美ですが、現場では違いました。星田監督は「絶対明美のセリフを涙声で言わないで」とおっっしゃいました。どんな辛いセリフでも明るくいうことで、明美が涙を誘うから、と。シーン的には明美が嫌な女に見えてもしかたないのに、少しでもそう映らないよう考えて下さったんです。皆川監督からも素敵な“プレゼント”をいただきました。明美が比呂人と結婚式を挙げるため、申し込みの用紙にサインをするところで、最後笑顔になったんですけど、それは皆川監督が「僕が明美の出るシーンを撮るのはこれで最後なので、せめて1回ぐらい明美の笑顔を撮りたい」とおっしゃり、急きょ追加されたカットでした。皆川監督の言葉に私、シビれましたね。明美は不幸の連続でしたけど、「ここに明美の幸せを願ってくれている人がいた!」と。それだけで私も本当に救われました。

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