- ――普通の人のつもりでしたが…
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初めに真紀枝を演じるにあたり、星田良子監督からは「悪い人として演じなくていい」と言われたんです。そのつどそのつどの真紀枝の感情を大切にしてくれればいい、と。とはいえ、私が最初に撮影したのは、真紀枝が桜子の産んだ赤ちゃんを勝手に養母に預けに行く場面でした。そこは私からしても「ひどい話だな~」と思ったし、その後の撮影が、勝と沙也香の結婚式で、花嫁の背中をバンバン叩きながら「おめでとう!」と言う場面でした。普通に演じようと思いましたが、やっぱり真紀枝って行動やリアクションが普通じゃないんですよ(笑)。そう言えば、自分の弟子の美容師が唯幸に横恋慕していることを知ると殴ったりもして、激しい女性でもありますよね。そんな真紀枝を演じる上ですごくありがたいことがあって、唯幸役の神保さんが現場でとにかく優しいんです。激しいシーンや長セリフのあるシーンの前にはいつも「大丈夫?」と気を遣ってくれるんです。彼のほうが年齢は下ですよ。でも完全に甘えさせてもらっています。
真紀枝が夫の女性問題で嫉妬するところは、分らなくはないです。真紀枝は唯幸を今も愛しているんですね。もし夫婦の間が冷め切っていたら、旦那が好き勝手なことをしていても、「どうぞご自由に」っていう態度を取るはずですよね。でも真紀枝はそうではない。私は真紀枝の唯幸絡みの行動は、“愛ゆえ”なんだと思いました。真紀枝は唯幸が桜子に抱いている感情に気づいてないと思います。「何か怪しい」とは感じているはずですよ。でも実際に唯幸が桜子に直接何かしているところを真紀枝は目撃していないし…。唯幸が桜子に色目を使っているのを真紀枝が見てしまったら怒り狂うでしょうね。私自身は台本を読んでいるので、唯幸の桜子に対する気持ちは当然分かっているわけですが、役としてはそこを気づいていない、という設定で演技をするのは難しくもあり、楽しくもあります。
- ――手書きのセリフはまるで“写経”
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今回、周りからは「真紀枝みたいな役は得意でしょ?」なんて言われましたけど、とんでもない! 私はどんな役も、演じる前はすごく緊張してしまうんです。私は台本をいただくと、まず自分のセリフを用紙に書き写してセリフを覚えていきますが、ぼう然となりました。あまりに真紀枝のセリフの量が多くて(笑)。覚えるために書いたものを私は現場に持ち込み、お守りみたいに肌身離さず持って出番シーンの一つひとつが終わるたびに処分していきますが、雄一(大熊啓誉)にはいつも「写経みたいですね」と驚かれていました。中島(丈博)先生の作品に出るのは今回が初めてですが、「さくら心中」だけを見ると、話の始まりは昭和50年代の初めですけど、プロデューサーさんから「さらに一昔前、昭和30年代ぐらいの気持ちで演じて下さい」と言われたんです。だから、こんな激しい展開もありなのかな、と思えました。半分空想みたいな展開でしょ。演じていても結構楽しんでやっています。
視聴者の皆さんには真紀枝の言動をとにかく楽しんで欲しいですね。この作品って、桜子は男性を魅了する美しさの持ち主だし、秀ふじさんは、しっとりとした美しさがあるし、と登場する女性たちにそれぞれの美しさがあります。その中で真紀枝は…。まあ、雄一とのやりとりなどを取っても、視聴者の皆さんを楽しませるポジションかな、と思っていますが、そんな役割をまっとうしたいですね。現場では撮影が進むにつれ、「雄一と本当の親子に見えてきた」なんて言われています。放送を見て、そんな風に思ってくださる方がいたらうれしいですけど。
- ――指示されることのありがたみ
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この作品はキャストの皆さんが本当に優しい方ばかりで、それだけで幸せでしたが、もう一つ、星田監督とご一緒できたこともとても幸せですね。長く演技の世界にいて、キャリアという面では私もそれなりにやってきましたが、自分ではまだまだと思っているところがいっぱいあります。でも最近では監督も私より年下の方も多くなってきて、演技で注意されることがどんどん減ってきているんです。それは淋しいことでしたから、この現場で星田監督にいろいろ言っていただけたことが本当に楽しいしうれしいし、貴重な体験をさせてもらっているな、と感じています。