13 徳山秀典さん(高梨比呂人役 / 宅間堂一役)

――撮影と比呂人を振り返って

撮影のあった4カ月間は、本当にこの作品にのめり込んでいました。撮影も終了間際、いろいろなセットで芝居をするたび、「このセットではあんなことがあったな」と思い出していたし、どのセリフも忘れていません。


 無理心中で亡くなった比呂人はあんな亡くなり方だったとは言え、きっと幸せだったと思います。愛する桜子のことも守れたし、愛する娘とも触れ合えたし。不幸も数多く経験しましたが、何より最終的に“男”になれましたから。ただ、明美とのシーンは辛かった。明美を演じた中澤(裕子)さんが、明美の比呂人に対する愛情がものすごく伝わる演技をしてくれたんです。“愛の歴史ケーキ”だって、端から見たらやり過ぎだと思うかもしれませんが、そんなものを出すところまで追い込まれてしまった明美の心情を中澤さんは説得力のある演技で表現したので、全然不自然に感じませんでした。中澤さんの演技を受け、比呂人が明美の頬を殴る場面では本当に「うぁ~」と心の持って行き場がなくて、どうしようもない末の行動として演じることができたし、桜子と明美の間でとことん揺れ動くこともできました。

正直に言えば、徳山秀典としては桜子より明美を選ぶと思います。「どうして!?」と思われる方もいるかもしれませんが、あれだけの愛情を向けてくれたら、僕はそれに応えたいんです。自分の中にそんな想いを抱きながら、比呂人としては桜子のことをひたすら一途に愛さなければなりませんでしたが、比呂人と桜子って理屈じゃないんですよ。比呂人のセリフにも「二人が一緒になるのは宇宙の法則なんだ」というものがありましたが、言葉で説明できるようなものではないんですね。僕も最初は「普通なら明美を選ぶだろう」と思ったし、いろいろ悩みもしましたが、とことん比呂人の気持ちや感情を考え納得しました。演じる側が納得しなければ、視聴者の皆さんに説得力のある作品を届けられるはずがありませんから。

今回は役の設定、セリフ、話の展開…。すべてに対して悩んだし、苦労もしました。もし「どの場面が一番大変でしたか?」と聞かれたら、「全部です」と答えます(笑)。反面、やりがいも相当なものがありました。僕は台本と“格闘”するのが大好きで、そういう意味ではこんなに格闘し甲斐のある台本はありませんでしたから。台本の伝えたいこと、僕が役を通して伝えたいこと、プロデューサーや監督が伝えたいこと。それは共通しているところもあれば、微妙に違うところもあります。うれしかったのは、星田(良子)監督を始め、スタッフの皆さんが比呂人として僕が伝えたいことをとても大切にしてくれたんです。スタッフの愛情を感じられたので、比呂人を精一杯演じることが出来ました。

――驚きの再登場

 宅間に関して僕は、比呂人に乗り移られた男だと思っています。桜に触れた瞬間、比呂人がこの世に残してきた想いが体の中に入り込んできた、というか。だから桜子にあっという間に心を奪われてしまったんです。もちろん宅間自身は、自分の心の中に別人の想いが入り込んでいるなんて思ってもいないから、心に小さなとげが刺さり、その痛みがどんどん大きくなっていくように、桜子の存在が自分の心の中でどんどん大きくなっていっただけなんですよ。

無理心中でこの世を去った比呂人が別の形で物語に登場すると最初に聞かされたときは、僕自身が「何でですか!?」とビックリしました(笑)。でも実際に宅間を演じると、宅間が現れたことで、比呂人の良さっていうものをドラマを観てくださっている皆さんに再認識してもらえるな、と思ったんです。宅間はカナダの美容院でも実力が認められ、カリスマ美容師としての自信もあるし、まっすぐというか“ド直球”なヤツです。男らしいし、言いたいこともはっきり言います。反対に比呂人は優し過ぎるところがあったし、何でもぶつけるというより自分の中に溜め込んでしまうところもありました。そんな人物だからこその魅力も当然あって、宅間と比較して「比呂人には比呂人の、宅間には宅間の魅力があるな」と皆さんに思ってもらえていたらうれしいんですが。

――深くドラマを観てくださった皆さんへ

 昨年「インディゴの夜」にも出演させていただきましたが、「さくら心中」は僕にとって本格的に昼ドラに挑戦した作品です。思い入れのある作品になりましたが、多くの視聴者の皆さんが楽しんでくださっていると聞き、こんなにうれしいことはないです。それも桜子と比呂人の純愛を応援してくれただけでなく、雄一や沙也香のような“悪役”的なポジションのキャラクターにも愛情を感じさせるメッセージがたくさん届いたと聞き、深くこのドラマを観てくださっていることが分りました。もちろんそうなるようスタッフキャストとも力を注ぎましたが、報われたことに感謝しています。

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