詐欺と知らず加担…「このまま人生終わるのか」“闇バイト”で犯罪者となった元少年たち 証言から見えた現実
いま、多くの事件で耳にする「闇バイト」。犯罪に加担すると知らずに、足を踏み入れる子供たちがいる。闇バイトがきっかけで、犯罪に手を染めてしまった元少年たちを取材すると子供たちを守るために、必要なことが見えてきた。
■犯罪に手を染めた元少年たちの後悔…増える「闇バイト」
愛知県内に住むショウさん(仮名 20)。2021年、高校3年生の時、特殊詐欺で高齢者からキャッシュカードをだまし取り、逮捕された。
ショウさん(仮名):
「簡単に(キャッシュ)カードとかも受け取って、お金とかも引き出せていたので、当時は結構『それでお金得られるならいいかな』みたいな甘い気持ちはあった」
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ショウさん:
「特殊詐欺のグループの人たちが、高齢者とかに連絡とかしていて、アポを取っていて『近くにいる警察官が行きますね』って伝えていて、それで自分が行って。トランプでカードっぽいのを作って封筒の中に入れていたんですけど(高齢者に)印鑑が必要っていうのを伝えて取りに行っている際に、本物のカードを入れてもらった封筒と偽物の僕が作った方をすり替えて、本物のカードを盗む」
18歳だったショウさんが犯罪に手を染めたきっかけは「闇バイト」だった。
ショウさん:
「ラクして(お金が)欲しいなとか、そういう考えもあったので。その時に自分でTwitterとかで(闇バイトを)調べていたっていうのもあるんですけど、そこで今回の特殊詐欺のやつを見つけた」
犯罪組織が、SNSなどを介して実行役を募集する「闇バイト」。2023年6月11日、神奈川県川崎市の時計店に2人組が押し入った強盗事件。
この事件も背景に「闇バイト」があるとみられていて、取り押さえられた男は逃走した仲間とみられる2人について…。
警察官:
「(逃げた仲間は)友達か?」
男:
「わからないです!」
警察官:
「なんでわからないんだよ」
男:
「本当にわかりません」
行動を共にしていたにもかかわらず「わからない」と答えていた。闇バイトで集められた人物と犯行に及んだとみられている。
増加する「闇バイト」が絡んだ事件。特殊詐欺で逮捕されたショウさんも、直接会ったことがない人物から、秘匿性の高い「Telegram」というアプリで指示を受けていた。
ショウさん:
「最初はTwitterでやっていたんですけど、Telegramっていうアプリで説明とかするって言われて、そのアプリを入れて、それ以降はずっとそれで(連絡を)していました」
ショウさんは鑑別所などを経て少年院に入り、約1年を過ごした。
ショウさん:
「本来は社会で生活するのが当たり前なので、キツくても仕事とかして、地道にそういうの(闇バイト)に頼らずしていくのが1番いいのかなっていうのは思いますね」
ショウさんの更生を支えている、渋谷幸靖(ゆきやす 40)さん。非行少年の立ち直りを支援するNPO法人の理事長だが、最近、「闇バイト」で犯罪に足を踏み入れる子供が増えているという。
NPO法人「陽和」理事長の渋谷幸靖さん:
「昔であれば、例えば反社会的な人たちと繋がりがある人たちが、根が深い犯罪に加担していましたけど、今はSNSを通してそういった人脈が無くても繋がれてしまう時代なんですよね」
「闇バイト」はまさに子供たちを“闇”に引きずり込む罠になっているという。
渋谷さん:
「本当に詐欺ってわからずにやる子って、実際にいるんですよ。加害者ではあるんだけども、被害者になってしまう、知らずに加担してしまう子たちが増えています」
■「このまま人生終わるのか」…「闇バイト」とわからずに犯罪に加担した男性
渋谷さんのもとで更生した、近藤亮(23)さんは19歳のとき、「闇バイト」とわからずに、特殊詐欺に加担させられた。
Q.「闇バイト」という認識はありましたか
近藤さん:
「あんまりなかったです」
SNSで安心・安全を謳う「高収入バイト」を見つけた近藤さん。ATMから100万円引き出すだけで、3万円の報酬がもらえるという“仕事”だった。
報酬を差し引いた97万円を、駅のトイレの個室の隙間から何者かに手渡したが、共犯者と顔を合わせることはなかった。
近藤さん:
「5分とか、もう数分でしたね。ヤバいことってわかっちゃって、そこから3万円貰って、このまま人生終わるのかってドキドキしていましたね。罪悪感しかなかったですね」
近藤さんは警察に自首し、その後、懲役1年8カ月、執行猶予4年の判決を受けた。
渋谷さん:
「Twitterとか見ていると、また闇バイト的なのがいっぱい出てるじゃん」
近藤さん:
「想像はしちゃうんですけど、もうさすがにできないかなっていうのが」
渋谷さん:
「でも、オイシそうだなっていうのも何個かあるでしょ、見ると」
近藤さん:
「見るとありますね。また蘇ってくるんで、繰り返しになっちゃうと思うと」
近藤さんは更生し、名古屋市にある工場で働いている。
勤務先の社長:
「きちっとやろうという気持ちが、前を向いている気持ちが表情に出ているなっていうのを感じます」
近藤さん:
「性格は変わっていないんですよ、ずっとこんな感じで。身体が細くなった分、動きも軽くなったし。あと声が小さいので大きくするように頑張ろうかなと。気持ちは誰にも負けない精神状態です、今は」
社会に出る前の子供たちを 犯罪に引きずり込む「闇バイト」。失敗しても、何度も繰り返してしまう子供が多くいるという。
■更生支援する男性も元非行少年 助けになるのは「人と人との繋がり」
渋谷さんは、少年院などを出た子供たちを受け入れる自立援助ホームを、愛知県に立ち上げようとしている。
渋谷さん:
「まだ何もない状態なんですけど、ここでちゃぶ台を囲んで、みんなでご飯を食べて…」
自身も非行少年だった渋谷さん。
高校2年生の時に、いわゆる「オヤジ狩り」で少年鑑別所へ。
その後も詐欺事件を起こし少年刑務所に服役したが、更生のきっかけは母親だった。
渋谷さん:
「母親が面会に来ると、顔見ただけでも涙が止まらなくて、別に優しい言葉をかけてもらったとかじゃなくて、ただいるだけで涙がこらえきれなくて。親孝行の1つもできないような自分ってすごくカッコ悪いし、これは卒業しないといけないなと」
更生の助けとなるのは「人と人の繋がり」。SNSで犯罪と繋がってしまう今、より求められていることなのかもしれない。
渋谷さん:
「いろんな困難を抱えた子供たちが、ここで初めて家族の温もりとか、人を信用することっていいんだとか、頼っていいんだなっていうことを感じてもらえる場所にしたいと思っています」
■SNSで犯罪が身近な社会 3度逮捕された男性「人の助けが必要」
全国で講演会も行う渋谷さん。その壇上には、“元”非行少年の姿があった。
成嶋駿太(21)さん:
「自分はこれまで3回捕まっていて、1度目は14歳の時です。3度目の逮捕の前、1か月くらいずっと家に引きこもっていて、人とも全く話せない状況で、人と関わることが怖くて」
彼もまた、子供の時、人との繋がりを求めていた。
成嶋さん:
「自分たちの言う事を本当に否定しなくて、目を真っ直ぐ見て、頷いて、自分の話をよく聞いてくれて。そんな人のことを裏切った自分はもう、居場所も次こそどこにもないって思っているので。やっぱり人の助けって本当に必要だなっていうのは、改めて思った」
渋谷さん:
「真面目になろうと思っても、自分の中で色んな劣等感とか、他人と差をつけたいとか、いい生活をしたいとか。色んな心の中から、そういった悪い道を選択してしまうっていうのが非常に多くて、SNSを通して誰でもいまそこに手を入れてしまう、そこを掴んでしまう子が多い。今の社会は昔に比べると便利でもあり、そこ(犯罪)に到達しやすい、かつ、抜けにくい社会ですね」
愛知県警が2023年1~5月の間に特殊詐欺事件で73人を逮捕しましたが、このうちの41人が「闇バイト」が関係しているとみられている。
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2023年6月22日放送