駅のホームから人が転落する事故を防ごうと、ホームドアの設置が進められている。乗降客の多い駅では設置も進んでいるが、コストなどの問題で100%にするのは簡単ではない。

 名古屋市営地下鉄では設置率が9割近くになっているが、名鉄と相互乗り入れをしている鶴舞線だけは、完成予定が2年後だ。

■ホームドア設置を阻む3つの要因「バラバラ」「重い」「高額」

 2024年1月30日、名古屋市営地下鉄鶴舞線の八事駅でホームから男子中学生がふらついて転落した。ホーム下の空間に逃げ込んだため、ケガはあったが無事だった。また、この日の昼過ぎには同じ鶴舞線の平針駅で、30代くらいの女性が電車と接触し、死亡した。

【動画で見る】鉄道駅のホームドア 東海地方各社の設置率 地下鉄は88%で未設置は“鶴舞線だけ”遅れている原因は

こうした転落事故を防ぐ1つの方法として、導入が進められているのが「ホームドア」だ。日本全国の駅におけるホームドアの設置状況は、2012年度は9482駅のうち564駅と全体の6%だったが、2022年度は9390駅のうち1060駅と倍増した。10万人以上が利用する大きな駅では157駅と、4分の3近くに設置されている。転落件数は2012年に比べて1000件ほど減少したという。

成果は着実にあがっているが、ホームドアについて国交省は2025年度までに全国で3000カ所、利用者が10万人以上の駅では800カ所に増やす方針だ。目標には達していないが、その理由を元東京メトロ社員で「戦時下の地下鉄」などの著書がある、鉄道ジャーナリストの枝久保達也(えだくぼ・たつや)さんに聞くと、複数の要因があると指摘した。

要因の1つが「バラバラ」ということ。

鉄道ジャーナリスト・枝久保達也さん:
「JR・名鉄・近鉄は運行区間が長い路線が多いです。その中で普通の通勤用の電車も来れば、特急も来たりとか、いろんな車両が来たりするわけです。対応しなければならない要素がかなり多い」

通勤型と特急車両はもちろん、ドアの数や間隔が微妙に異なったり車両の数が違ったり、他社との相互運転をしていたりして、ホームドアが設置しづらいケースが多いという。

そして、2つ目の要因は「重い」ということだ。

一般的なホームドアは、扉と戸袋ひとつで500~600キロもある。地下鉄は鉄筋コンクリート製で強度があり問題ないが、古いホームでは問題がある。

枝久保さん:
「(ホームドアは)ホームの端っこの上に乗っけるわけですけど、そのホームドアの重量を支えるホームの強度が必要。古い駅のホームはブロックで積み上げて、下は土みたいな駅もある。改修強化が必要なところもあると思います」

古いホームでは、杭を深く打ち込んで補強する必要があり、費用も工期もより大きく長くなるという。

そして3つ目の要因は「高額」ということだ。

枝久保さん:
「どこまで改修するかによりますけど、(ホ-ムドアは)普通に100億、200億とか、条件が良くてもそれなりの金額はかかりますね」

枝久保さんによると、ホームドアは1駅設置して数億円で、全駅設置すると数百億円の規模になるという。加えて、扉がバラバラの車両をそろえるとなると膨大なコストがかかる。

枝久保さん:
「電車はだいたい一編成で、約10億、20億するので。通勤路線だとそれが30本とか40本、保有しなきゃいけない。20億かける30本だと、600億円とか。駅を補強するとなれば、さらにかかりますので、もう1000億とか見えてきちゃう。まあ一番極端な例ですけどね」

各鉄道会社は、2021年から始まった「バリアフリー料金制度」というものを使っている。

枝久保さん:
「(バリアフリー料金制度は)運賃に10円とか上乗せして、バリアフリーの部分だけに使いましょうという。ホームドアは、今後は必要な設備、つけなければいけない設備っていう方向にきていると思います」

■地下鉄は88%…東海地方の鉄道の設置状況は

 東海地方の現状について鉄道各社に聞いた。JR東海は、新幹線「のぞみ」の停車駅などに設置されているほか、在来線の金山駅に加え2024年1月、在来線の名古屋駅6番線にも新たに設置された。今後2030年度までに名古屋駅と金山駅の別のホーム、刈谷駅、千種駅、大曽根駅にも新設する予定だ。

ホームドアだけでなく、視覚障がい者向けの「内方線付き点状ブロック」や「転落検知マット」、警備員の配置など、さまざまな対策で安全性を向上させるとしている。

名鉄は、中部国際空港や上飯田駅に設置されている。しかし、名鉄は電車の長さや扉の数がバラバラで、ホームの構造や強度面の問題もあって難航しているという。現在は10万人以上が利用する金山駅と名鉄名古屋駅での設置を計画・検討している。

近鉄は、大阪の阿部野橋駅(あべのばし)に設置されている。この駅は比較的同じ種類の車両が走っているため導入したものの、特急や通勤電車など車両の種類がバラバラで、さらにホームが狭いなど、駅の構造の問題もあって厳しい面もあるとしている。

そして、名古屋市営地下鉄は、鶴舞線を除く79駅に設置されていて、設置率は88%だ。ホームドア設置前の名城線は、2019年に転落事故が16件あったが、2021年に全線で設置されてからはゼロになった。

現在、鶴舞線だけホームドアがないのは、名鉄と相互乗り入れを行っているためで、従来のホームドアを開閉するシステムは、車両と駅のホームにそれぞれ設備を搭載する必要があり名鉄の協力が不可欠だったが、技術が進みホーム側に整備するだけでホームドアを運用できるようになり、名鉄も対応が可能になっている。

2026年のアジア大会までの完成を目指している。

■都営浅草線で導入されたQRコードシステム…コスト20億円が270万円に

 また、複数の私鉄と相互直通運転をしている東京の都営地下鉄・浅草線では、コストを大幅に抑えることができる画期的なシステムが導入されている。

列車のドアの窓についたQRコードを、ホームの天井に設置したカメラが読み取ることで、車両の数やドア数といった情報が分かり、必要な扉だけを開くことができるようになった。

従来方式では車両の改修費などで20億円かかるはずだったものが、270万円ほどに抑えることができるという。

2024年2月2日放送