この枠の作品に出演するのは本作が初となる野際さん。老舗旅館の大女将、という役柄がこれほど似合う方は、野際さんをおいていないのではないでしょうか。
- ――今回は羽田さんとのW主演となりますが。
- 「私としてはヒロインのつもりはないんですけど(笑)、劇中では奈緒子さんだけでなく志乃の話もいろいろと出てくるんですよね。女将としての場面以外だけでなく家庭でくつろいでいる場面もあるし、宗佑という不肖の息子がいることで悩む姿も描かれます。そういう意味では、これまでドラマではあまりスポットを当てられなかった世代の女性をしっかり描いている作品だと思います」
- ――志乃はどんな女性でしょうか?
- 「志乃は決して“スーパーウーマン”ではないんです。全てにおいて完ぺきでないし、ときには板長の夫に甘えることもあります。何より息子のことがありますからね。借金を作り、それを解決しないまま雲隠れしてしまう息子を育てた、ということは私の中でかなり引っかかっています。奈緒子さんと再会して、最初は『ウチの息子はこの嫁にたぶらかされ、ダメになったに違いない』と思い込もうとしてますけど、どう考えても息子にも非があることは分っているんですよね。そういう志乃の気持ちがどう着地するのか、私自身も楽しみにしています」
- ――女将を演じるとき、大切にしていることはありますか?
- 「き然としているけれど、優しさもちゃんとある。女将を演じるときはいつも、そんな雰囲気が出ることを心掛けています。今回、ロケに行った際、『加賀屋』という旅館にお邪魔して、女将さんに話を聞くことが出来たんです。すごい偶然なんですが、彼女は私と同じ大学出身で3学年下なんです。力の抜け具合や着物のこなれた着こなしなどを目の当たりにすると、『撮影前に会って話がしたかった』と思いました。女将さんってそれはそれは大変ですよ。女将さんがその旅館の経営者のことが多いですから、運営のこと、従業員のこと、お客様のこと…。常にいくつものことを考えなければいけませんよね。それでも加賀屋の女将さんはその全てを結構楽しんでいるようでした。女将さんとお会いして、いろいろと参考になりましたが、一つだけぜひ参考にしたかった、と思っていることがあるんです。女将さんは襟元に分厚い懐紙を入れていて、財布のように使ったり、長旅で靴擦れしたお客様のため、絆創膏を挟んでいたり。これは一流旅館の女将役として取り入れたかったです」
- ――志乃は加賀弁を使っていますが、これは野際さんからのリクエストだとか。
- 「母方の祖母が金沢出身で、ずっと一緒に暮らしたわけではありませんが、それでも子供の頃に聞いた祖母の言葉は今も覚えています。加賀弁ってたおやかで品があって、決して耳障りな言葉ではないと思います。ずっと“加賀女”を演じたくて、今回このお話を引き受けたのも、加賀弁でやらせていただけることが大きかったですね」
- ――実際、加賀弁を使っての感想は?
- 「難しいですねー。言葉の流れに法則があるような、ないような。ついこの間までNHKの朝ドラで出雲弁を使っていたんですけど、日本海繋がりということで、似ているところもあるんですよ。でも当然違うし、私の父は富山出身ですが、富山弁ともやっぱり違うんですよね。言葉のうねりというかアクセントというか…。それにイントネーションでも苦労しています。撮影も進んでいますから、かなり慣れたつもりで、『ここは上がるだろうな』というところがなぜか平たんだったり。思いがけないことの連続です。でも○○するまっし、なんて言葉は祖母が使っていたのを覚えているから、まったく経験のない人よりは不自然には聞こえない程度に使えているんじゃないでしょうか」
- ――志乃を演じる上で、方言を使うことは役立ってますか?
- 「なぜか最近、すごくその土地土地の持つ言葉の美しさに惹かれているんです。出来る限り方言は残していきたいですね。実際、今金沢で志乃のような言葉で話している人はそういないと思いますよ。だからこそ、昔から受け継がれている言葉を使うことで、志乃の“加賀百万石”といわれる金沢で暮らしている者の誇りやプライドを表現できると思うんです。まあ、こんなに大変だとは思いませんでしたけど(笑)。でもね、一旦方言を自分の中にしっかり入れられると、役を演じる上でこんなに助けになるものはないんですよ」
- ――ところで野際さんがお姑役ということで、嫁姑のバトルを楽しみにしている方も多いと思います。
- 「何度かお話ししているんですが、志乃は奈緒子さんのことを『花嫁のれんもくぐってないえんじょもんのくせに』と、嫁として認めていないんですよ。志乃の中で奈緒子さんは嫁でない以上、“嫁姑のバトル”というものは成立しないと思います。今回は嫁と姑ではなく、大女将と仲居、という関係性で二人がどんなやりとりをするのか観ていただきたいですね。志乃の心はとても複雑なんです。奈緒子さんに女将の素質あり、と気づいたところから“女将として育ててみたい”という気持ちが湧きつつ、一方で嫁としては認めてないわけですから。それに若女将として修行中の孫娘の存在もあります。何にしても志乃と奈緒子さんは普通の嫁姑バトルにならないはずなので、ご覧になる皆さんも新鮮な気持ちで楽しめるんじゃないでしょうか」
- ――奈緒子を演じる羽田さんとは10年来のお付き合いだとか。
- 「最初は娘役でしたが、一生懸命で真面目で、思わず“いい子、いい子”って頭をなでてあげたくなる人ですね(笑)。今回、彼女は本当に大変。でも手を抜くようなことはしない人だから、私も負けてられない、という気持ちにもなります。お互い頑張りましょうね、と励まし合っていますが、彼女は本当に“天然”なところがあるので、和ませてももらっています(笑)」
- ――視聴者の皆さんにメッセージをお願いします。
- 「『加賀屋』がそうでしたが、女将さんには、この人と仲良くなりたい、親しくなりたい、と思わせるものがあって、それが旅館の居心地の良さに繋がっている気がするんです。『花嫁のれん』という作品からもそんな雰囲気を視聴者の皆さんに届けられたら、と思っています。素敵な旅館の、素敵なおもてなしはこういうものですよ、というのを味わっていただきたいですね。もちろん、話自体もどこか懐かしいホームドラマに仕上がっていますので、お楽しみください」
- ――最後にドラマ冒頭の観どころを語っていただけますか?
- 「実はサスペンスなんですよ、この話は(笑)。志乃にしてみれば、えんじょもんの嫁が3年ぶりに突然現れ、居座られてしまうわけですから。奈緒子さん側からすれば、人生の岐路に立ち、それをどう乗り越えていくか、というところが描かれているので、物語のプロローグとして、とてもおもしろく観ていただけると思います」