娘婿のせいか、神楽家の中で一番立場の弱い伸也。小林さんは、そこにいるだけで笑ってしまうような、おかしさをまとい伸也を演じています。烏丸さんとの楽しいやり取りは、現場を明るい雰囲気で包んでいるほどです。
- ――伸也を見ていると、ほのぼのとします。
- 「もうね、本当に素のままで演じさせてもらったんですよ。自由にやりたいように(笑)。とは言え、決して楽して演じた、というわけではないんですよ。スケジュール的には大変なときもあって、スタジオに入る前に、ある程度、どんな風に演じようかまとめておかないと間に合いませんでしたから。時間のない中で台本を消化して、それで現場で監督からNGをもらえば、また別の演技プランを考えなきゃいけないこともありましたけど、ありがたいことに伸也は奈緒子さんや義母さんの周りでわいわいがやがやしていることが多かったでしょ(笑)。だから結構自由に演じられました」
- ――リハーサルである程度、演技を固めたんでしょうか?
- 「リハーサルはどんな演技を求められているか、確認する場ですね。僕はそれを家で消化してました。リハーサルでは共演者の皆さんと“キャッチボール”をして、どういう立ち位置か考え、家で、じゃあどう演じようか、とプランを練り、スタジオに入る、という感じでしたね。スタジオでは5球に一球ぐらい、ストライクゾーンに入ればいいかな、というぐらいの気持ちで演じました(笑)」
- ――伸也と照子の掛け合いはとても好評です。
- 「烏丸さんはすごく魅力的な女優さんですね。だから僕も楽しくお芝居をさせてもらいました。現場で烏丸さんを見ていると、自由奔放に見えたでしょ? でもね、違うんですよ。彼女はすごく繊細な人だと思いますね。演技に対しても一途というか、真面目だし。お昼のドラマって説明口調になってしまうときがありますが、烏丸さんはちゃんと自分の中で照子さんのセリフを理解して消化しているから、セリフのやりとりがすごくやりやすかった。ただ、どんどんリアクションがエスカレートしてしまったかな(笑)。それは自覚していて、撮影の際もワンシーン撮るごとに、まず僕ら自身が笑ってました」
- ――照子さんとのシーンはおもしろくなるとすぐ思ったんでしょうか?
- 「照子さんと二人の、ある場面で、僕はその終りのところは伸也と照子さんが目を見合わせて、心情を表情で表せばいいと思ったんですよ。ところが烏丸さんが、『ここはちゃんとセリフで示さないとダメでしょ。小林さんがオチをつけて』と突然、今でいうところの“無茶ぶり”をしてきまして(笑)。『本番までに考えておいてね』と突き放されたんですけど、いざやってみると、『おもしろくない』とバッサリですよ(笑)。そういうことが度々ありましたけど、観てくれる方を楽しませるのはどうすればいいのか、常に考えつつ演じられて良かったですよ」
- ――この作品は現場の雰囲気もとても温かでしたよね。特に神楽家の夜食の場面は、皆さんの表情がリラックスしていて、本当の家族のようでした。
- 「神楽家のあの良い雰囲気はひとえに野際さんのおかげです。野際さんが作ってくれたんですよ。羽田さんもですけど、主演の二人が本当に周りに気を使ってくれたんです。それはよそよそしい、ということでなく、心を割ってあれこれ考えてくれた、ということ。だからみんながファミリーのように一つになれたし、それが笑いにも繋がったし、おっしゃったようにリラックスした表情にも繋がったんだと思います。今回は男性陣が少なかったじゃないですか。リアルに『サザエさん』のマス夫さんのようなポジションを楽しめました」
- ――神楽家は志乃さんが中心となり、何事も進んでいきますが、実際の家庭も女性が強いほうがいいでしょうか?
- 「そりゃ、そうでしょ。僕は、家は妻のものと思ってますよ。この前、ウチの電子レンジが壊れて、最新式のヤツを買ったんです。僕は料理を作るのは好きだけれど、機械に強いほうじゃないから、まったくその電子レンジに触れない。もう完全に嫁さんのものですよ。あと、今の携帯っていろいろと複雑でしょ。酔った勢いで電話帳のメモリーを全部消したことが2回あるんですけど、その再入力は全部嫁さんがやってくれたんです。機械関係は全部嫁さん任せです」
- ――現場では子供役の里久鳴さん、草川拓弥さん、木村真那月さんとこれまた本当の家族のようにお話されてましたよね。
- 「僕は器用じゃないから、本番のときだけ『この子は僕の子なんだ』なんて思えないんですよ。だから普段から自分の子だと思って接してました。みんなとは、普段は強い父でいますけど、撮影に入れば、僕も弱い父になるし、子供たちもそんな伸也にあきれていいという暗黙の了解があったんです。スタジオでは自由にやっていいよ、という。子供たちも偉いですよ。その切り替えがすごく自然に出来たので。幸(木村)も普段はまとわりついて甘えん坊だけど、スタジオに入るとお父さんをお姉ちゃんはどう思っているのか、お兄ちゃんはどう思っているのか。それを理解した上で、『自分だけはお父さんの味方』という幸のポジションを演じてくれたんです。この現場は、そういう一つひとつのことが本当に楽しかったですね。昼ドラならではの大変さにはちょくちょく苦しめられましたけど(笑)」