インタビュー

津田寛治さん(神楽宗佑役)

 物語の終盤を大いに盛り上げる奈緒子の夫、宗佑。愛すべき好人物なのか、それとも格好付けたいだけのダメ男なのか、それとも…。演じている津田さんには、どう映っているのでしょうか。

――この枠への出演は初めてな上、昼ドラへの出演自体、久しぶりだそうですね。
「10年ぐらい前に、他局で昼ドラをガッツリやったことがあるんですけど、それ以来ですね。前回は“大変だった”というのが第一の感想ですが、今回は『昼ドラってこんなに楽しかったっけ』って思ってます。主演の羽田さんは昼ドラ出演が初めてだし、野際さんもそんなにやったことがないとうかがいましたが、お二人がとても良い雰囲気を作ってくれるからでしょうね。羽田さんとは何度も共演しているので気心が知れているし、野際さんは年齢的にはそれこそ僕の母親ぐらいですが、現場での気配りがとても細やか。みんなが疲れていると、冗談を言って笑わせてくださるんです。役者としての現場での“居方”は勉強になったし、感服しています」
――宗佑についてですが、どんな風に演じようと思いましたか?
「第1話で登場したとき、ちゃんと顔が映らなくて、存在としてすごくミステリアスでしたよね。だから観ている皆さんの中には、『宗佑ってどういう人物だろう?』という感想を持った方もいると思うんです。だったらちゃんと登場するところからは、多面的なキャラクターとして演じようと思いました。奈緒子に見せる顔、母親に見せる顔、それだけじゃなく、シェアハウスの若者に見せる顔まで、全部一緒じゃなくて、『宗佑ってこういう面もあるんだ』っていうところをいくつも見せたい、と」
――それはなぜですか?
「まず宗佑は“ええとこのボンボン”という設定をいただき、そこから役のイメージを膨らませましたが、そういう彼だからこそ、母親には頭が上がらず、情けないところもありますよね。だけど奈緒子からすると愛すべき夫で、そう思わせるだけの魅力が宗佑にはやっぱりあるんですよ。例えばヤクザを演じるとして、ドスを聞かせればいいっていうものではなく、甲高い声で丁寧に話すほうが、かえって怖さを強調できることもあります。タイプは違えど、宗佑も結構複雑に演じられるキャラクターだと思ったんです」
――ドラマの冒頭、宗佑は事業に失敗して失踪しました。宗佑には何が足りないと思いますか?
「多分、宗佑は優し過ぎるんですよ。僕はこの作品で一番優しいのは母親の志乃さんだと思っていて、そんな志乃さんに似ているところのある奈緒子もやっぱり優しいし、彼女を育てた両親もやっぱり優しい人たちだと思うんです。そうやってどんどん“優しさ”の輪が広がり、その中に宗佑も入るんですけど、彼の場合はその優しさが裏目に出てしまうのかもしれないですね」
――宗佑と両親の関係はどう思いますか?
「難しかったです。台本を読んだ時点では、高圧的な母親に育てられてしまったがために、委縮している面もあるのかな、と思ってたんです。ところが撮影で野際さんが、厳しくともその中に母性をいっぱい感じさせる演技をされたんです。これだけの愛に包まれて育てられたのなら、宗佑は母親の良い面も絶対受け継いでいるだろうし、ただのダメな男ではないと思いました。宗佑の人として優れているところをブレずに芯に持って演じなくては、とそのとき思ったんです。演じる上では、宗佑と、何も言わず見守り続ける父親との関係も大切でしたが、山本さんとの共演も役者として大きな収穫でした。顔合わせのときから山本さんは存在感がものすごくて、改めて山本さんのこれまでの出演作を見たら、どの作品もクオリティーが高く素晴らしいものばかりだったんです。そんな山本さんの演技を間近で見ることが出来たのも、うれしかったし、勉強になりました」
――ところで男性として“花嫁のれん”の伝統はどう思いますか?
「僕は石川県の隣、福井県の生まれですが、あの辺りは今もまだ格式を重んじるところがあります。ただ若い世代は“えんじょもん”なんて言葉でよその人を受けつけない生き方は違和感があるんです。宗佑が奈緒子と再会したところで、奈緒子が友禅流しを見た、と言ったのに対し、『そんなこと、まだやってんだ』と宗佑が返しましたが、伝統は大切だけど、新しいものを取り入れる努力もしなきゃダメだ、という宗佑なりの考えの表れだろうし、地元にいたら僕もそう思ったはずです。ただ、宗佑の気持ちは分かるけれど、年齢を重ねるにつれ、地元に戻ると昔ながらの良さが残っていることにホッとするんです。だから花嫁のれんも、例えば50代、60代になったら、守っていかなくては、と思うようになるのかもしれませんね」
――物語も大詰めを迎え、宗佑は奈緒子と東京に帰りましたが。
「ここまでこの作品はコメディー調のところもありますが、金沢の地らしい、しっとりとしたところもある展開だったと思います。最終週は…。いやいや、ここで言ってしまったらもったいないな(笑)。宗佑は…。あー、これも言えないですね(笑)」