――キャストとして出演しているだけでなく、本作の法律監修も務めている本村さん。「本業は弁護士ではなく、役者です!」とおっしゃる本村さんの、演技への取り組みに加え、現代の司法修習生事情なども教えてもらいました。
お昼のドラマには4回ほど出演していますが、法律監修も兼ねて、というのは初めての経験です。密度が濃いというか、これまで以上に作品に関わっている印象は当然ありますね。今回はどんな点を監修しているかと言えば、法律上のセリフで間違いがないかのチェックをしているんです。台本準備稿の段階で、専門用語や法律用語の使い方がおかしくないかを確認しています。それに撮影が始まってからは、司法修習生や弁護士を演じる皆さんから個人的にいろいろ聞かれたりもしました。この作品には企画の早い段階から参加していますが、チェックする台本の数が膨大で(笑)。まあ、そういう点も含め、分量の多い昼ドラらしいな、なんて思いました。
法律事務所が舞台のドラマに、弁護士である僕がそうじゃない役柄で出演というのもこれはこれでありだと思います。バー「サファリ」の場面はドラマの中の癒しになればいいと思いました。キャストの皆さんも弁護士事務所のときと違う心持ちでそれぞれの役を演じるでしょうから、演じる皆さんにとっても「サファリ」がホッと息つける場所になれば、と思ったんです。今回、大ベテランの中村玉緒さんと二人芝居が出来るとは思っておらず、そういう場面を作っていただけて、とても光栄でした。
「サファリ」は店としてユニークというか…。変わってますよね。来るたび、3人娘がいろんなダンスを踊ってますから(笑)。ときどき、僕もダンスシーンに加わりましたが、それもまさかの体験でした。“娘”たちはもともとダンスをやっているそうで、ちょっと練習するとどんな踊りもモノにするので、驚きました。僕には娘、ましてあんな大きな子どもたちもいませんから彼女たちといろいろ話せて楽しかったです。セリフに「あんまり過激な衣装で踊るのは父親としては嫌だな」というのがありましたが、「実際娘がいたら、こんな気持ちになるものかな」なんて思ったりもしました。
俳優としてインタビューを受けると、「演技をしているときと、弁護士のときではどんな風に切り替えをしているんですか?」とよく聞かれるんです。僕はいつもこの質問に「切り替える作業は必要ありません」と答えています。そのときそのとき、その仕事に向き合っているだけのことなので。役者と弁護士の両立を未だにすごいことだと言われますが、僕が学生だった頃、法律科の学生で演劇をしている奴もいたし、社会に出てからも弁護士の仕事と音楽活動をずいぶん長く両立させた奴も知ってます。ただ、僕と同年代では、もうそういうケースはなくなってしまいましたが…。このことも何度も言ってますが、そもそも僕は弁護士より役者を先に始めたんです。だから僕の本業は役者なんですよ。ここ数年、バラエティ寄りの活動が多くなってしまいましたが、そろそろ役者業に力を入れたいと思っています。
ドラマに登場するさくらさんのように、裁判で争う前にモメるのを覚悟の上で、徹底的に話し合い、トラブルの解決を図ろうとする弁護士もいないわけではありません。ケースによりますが、僕もそういう機会を持ち、案件を解決したこともあります。さくらさんや夏希さんは、訴えられた相手の心情も考慮しますが、厳密に言えば、実際の弁護士がそんな風に考えるのは難しいことでしょう。弁護士は依頼人の利益を守ったり、勝ちとったりすることを求められますから。ただ、双方が話し合いでお互いが納得する結論を探そうとするとき、弁護士が相手の利益も考えて、合意してもらえるような提案をするときもあります。
実は以前に一度、司法修習生をドラマで演じたことがあるんです。ずいぶん前の話ですが、当時は弁護士希望者が多くて、司法修習生で検事になる人はほとんどいませんでした。そこで司法修習生たちに検事になるよう、スカウトマンのような人が片っぱしから声を掛けていくという内容でした。その後、司法修習生にスポットを当てる作品はなかったと思うので、そういう意味でもこの作品は新鮮だと思います。
僕が司法修習生のときは修習期間が2年間あり、じっくり時間のある中で法律を学ぶことができました。でも今の修習は1年で、修習生もしなくてはいけないことがたくさんあり、勉強に追われています。まだまだ不況が続いていますから、せっかく弁護士の資格を取っても就職先が多くないので弁護士になれない人も大勢いるんですよ。僕は景気の良い時代も悪い時代も見てきて、弁護士としてさまざまな経験を積むことが出来ました。今は弁護士としてキャリアを積みたくても、そのチャンスを得るのに苦労する時代です。修習生のときの苦労が報われるようになることを僕も願っているんです。
「柔よく剛を制す」。学生時代に柔道をやっていましたが、本来は体が小さな人でも技を使えば体の大きな人を投げ飛ばすことが出来る、ということを説いた言葉です。僕は、どんな困難にも身に付けた技を使えば立ち向かうことが出来る、という意味だと捉えていて、好きな言葉ですね。