――インタビューコーナーの最後を飾るのは、終盤に入り、時に元気な一面も見せるようになった春江を演じている星さんです。30数年ぶりにこの枠の作品に出演したという星さんに今回のドラマのことに加え、かつての昼ドラの現場などについてもうかがいました。
物語が進むにつれて、春江がどういう人生を歩んできたか明らかになりました。さくらさんと一緒に始めた法律事務所を辞め、結婚して子どもができて。春江は、自分が諦めた弁護士として活躍する夢を子どもに託すという、己のエゴを押し付けるようなことをしてしまいましたが、人生は思い通りにいかないのが常ですから…。娘は教師の道を選びました。自分を追い込むような春江の生き方は、可哀そうですよね。
春江は認知症を患っていますが、この病にはいろいろな症状がありますし、春江の場合は認知症である前に、何か胸に秘めているものがある、ということが大きかったですよね。そのために、正気に戻ったり、でもちょっとしたことでまた別人のようになったり、また別の瞬間は夢見ているような表情をしたり。ご覧になる皆さんに「この女性は何を抱えて生きているんだろう」と興味を持っていただけたら、という気持ちで演じたんです。
病気を患っている役を演じる際、リアルに表現することが大切なときもありますが、今回はドラマのテーマが明るいものでしたから、春江の病状も決して暗くならないよう演出してくださいました。ドラマのタイトルに“福きたる”とありましたから、私自身、春江は少しずつ笑顔も見せるようになる、と信じていたんです。撮影の途中で監督に「春江はどうなるんでしょう」とうかがったら、「今よりも元気なシーンが出てきます」とおっしゃっていただいたので、そこからはその言葉を頼りにして。気持ちの面でもとても楽になりました。
私は春江と同じ時代を女優として過ごしてきて、おかげさまで苦労らしい苦労はなくここまでやってこられました。役を演じる上で壁は当然ありましたが、映画でデビューして、テレビドラマ、舞台と世界が広がり無我夢中だったんです。私が「若大将」シリーズを始め、映画に出演していた頃は2本立てが普通で、休む暇もなかったし、「もっと有名になりたい」というような気持ちを抱くこともなく、そのとき与えられた役に真摯に向き合うだけでした。当時の私は演技が出来ることがただただ楽しくて、振り返ると幸せでしたね。それにもともとのんきな性格ですから(笑)。春江が人生の中で抱いた苦悩は、台本から推し量るしかありません。
女手一つで娘を育てるのはとても大変なことです。夫を早くに亡くした春江もそういう状況に置かれてしまいましたが、誰にでも苦労することや挫折することはあります。でも人はどんなに大変なことが起きても、それを乗り越える力があると思うんです。春江がずいぶんと時間がかかってしまいましたが、以前の元気な姿に戻ることが出来ましたからね。
この枠の作品に出演するのは32年ぶり、「ぬかるみの女」シリーズ(’80、’81)以来です。実はその前に(中村)玉緒さんが出演されていた「あかんたれ」にも、ほんの少しだけ出演させていただいたことがあるんです。本当に懐かしいですね。当時は夜のドラマ、お昼のドラマとはっきり分かれていたところもありましたけど、スタッフ、キャストが一丸になり、「とにかく良い作品を作ろう」という想いにあふれた熱気ある現場でした。そのおかげか、未だに「ぬかるみの女」のことを大切に思ってくださる方がいっぱいいるし、「あかんたれ」もきっとそうだと思います。当時はフィルム代が高くて、撮ったものが放送された後、そのフィルムを次のドラマに使い回していたんです。今思うともったいないことをしましたよね。でも「ぬかるみの女」や「あかんたれ」は保存されていて、それも奇跡的なことだと思います。
玉緒さんとご一緒するのも本当に久しぶり。でも、現場でお会いするとどれだけ時間が経っていても、ついこの間会ったような感覚でお仕事が出来るんです。それがこの世界の良いところだと思います。きっと玉緒さんのお人柄がそんな風に感じさせてくれるのかもしれませんね。「あかんたれ」にご出演されていた当時、よくお目にかかってましたが、朗らかな笑顔は今も変わらず、でした。
今回の作品で良いな、と思っているのは修習生役の皆さんの演技がとてもすがすがしいこと。これからもみんなの活躍を見たくなりますね。それに法律事務所って敷居が高いイメージを持っている方も多いと思うんです。でもありとあらゆる相談に乗ってくれるし、解決するよう努力してくれるじゃないですか。私も法律事務所に対する印象が変わりました。
私も長く芸能生活を送り、さまざまな相談を受けてきました。中には「女優になりたい」、「芸能界に入りたい」というものも。こればっかりは自分が望んでも、なれるものでも、入れるものでもないんです。ここ数年、舞台で北島三郎さんとご一緒してるんですけど、北島さんも「人間、努力することはとても大切だけど、必ず報われるというものじゃないよね」とおっしゃっていました。人生、厳しいですからそういうこともあります。けれど、北島さんはこう続けられました。「でも、努力し続けることが大事なんだ」と。しみじみそうだと思いますし、この作品もそんなことを伝えてくれる気がしています。
私はもともと東京・神田の生まれですが、嫁ぎ先の京都で、地元の皆さんとお付き合いをするようになってから、自分には思慮深さが足りないなと気づいたんです。以来、何事も「心して」の精神で取り組むようにしています。何かをする前には心に留めることを大事にして、まず自分に「心して」と言い聞かせているんです。