発達がゆっくりで、筋力が弱いなどの傾向があるとされる「ダウン症」のある人たちが、様々な分野で活躍している。写真家に、映画俳優、そしてパリコレのモデルなど多岐にわたっていて、そこには“出来ない”と決めつけずに励む姿があった。

■壁はあるけど… “ダウン症だから無理”じゃない

 岐阜県飛騨市の佐々木虎太朗さんは、修行3年目のクラウンだ。

佐々木虎太朗さん:
「わたくしの名前は佐々木虎太朗と申します。『道化師クラウン』をやっております。ダウン症と言って、軽い障がい程度のダウン症です」

【動画で見る】パフォーマーから写真家まで…『ダウン症』の思い込みひっくり返す表現者たち 個性と向き合い可能性広げる

真っ赤な鼻を付けると「クラウンKOTA」に変身する。この日は、岐阜県飛騨市の飛騨かわいスキー場で、休憩中のお客さんの前で、パフォーマンスだ。

“ダウン症の人に演技は無理…”なんてことはない。持ち前の陽気さと道具を使ったパフォーマンスに、子供たちも次第に笑顔になり、いつのまにか人だかりができていた。

佐々木虎太朗さん:
「人を笑わせたり、幸せにすることが好きです」

師匠の岡崎賢一郎(おかざき・けんいちろう)さんにちょっかいを出してみせたり、失敗も笑いに変えたりして会場を沸かせた。

岡崎賢一郎さん:
「ほとんどアドリブです。最初は(1人で)できないと思った。前に出る出る。ダウン症でやっぱり壁もあります。できないと決めずにやってみようとして、できていくんです」

子供たち:
「面白い!すごかったし、楽しかった。皿回し!」

佐々木虎太朗さん:
「今日は楽しかった。幸せにできて」

■“独特の感性がある”と評価 写真家で活躍

「ダウン症」は、発達がゆっくりで、筋力が弱いなどの傾向があるとされている。通常2本ずつある染色体のうち、21番目が3本あることから、3月21日は世界ダウン症の日と定められている。

2024年のテーマは『思いこみを想いなおそう』で、決めつけをやめて、可能性を広げようという思いが込められている。

啓発ポスターには、笑顔でスポーツに打ち込むダウン症の青年が使われているが、この写真を撮影したのも、ダウン症のあるカメラマンだ。

名古屋市中区の福祉施設に通う川田太志(かわだ・たいし 42)さんは、小学生の時にカメラの楽しさを知った。

ハワイに行ったときに見た夕日や植物などカラフルな風景を撮影したところ、写真家の目に止まり、やる気に繋がったという。27歳のときにリサイクルセンターで撮影した作品「宝の山」は、二科展で入選した。

母親 川田敬子さん:
「空き缶ばかりでプレスしているから、太志君にとっては宝の山だねって。太志が撮る写真は、うまく撮ろうとか、いいふうに見せようと思ってなくて撮っているから、それがすごくいいと言ってくださって」

太志さんはその後も、独特の感性があると評価され、様々な写真展で受賞を重ねた。

ヘルパーさんと一緒に、愛知県長久手市の愛・地球博記念公園へ来た太志さんは、大学生にモデルを頼み、ユーモラスで、動きがある写真を撮影した。

遊具で遊ぶ子供たちも、太志さんが撮ると…

川田太志さん:
「未来のトンネルかな。過去と未来を行くところ」

太志さんは、名古屋市などを中心に、各地で写真展を開いている。

■ダンス・刺繍・モデル・俳優 広がる活躍の場

 ダウン症があると言っても、個性や得意なことは様々だ。

名古屋市名東区の大平楽人(おおひら・らくと)さんは、タップダンスで、様々なアーティストとセッションしている。上手く会話ができない代わりに、音楽で交友活動を広げている。

名古屋市昭和区の武市隆太郎(たけうち・りゅうたろう)さんは刺繍が得意で、1mmほどのマスを埋めるように針を動かし、毎日30分ほどの製作が日課となっている。

武市隆太郎さん:
「器用です。生まれつきなんで。お父さんが『武市木工芸』で建具や机を作っていて」

2024年3月、念願だったパリコレのランウェイを歩いたモデル・葉桜(なお)さん。

アカデミー賞ノミネートの映画「パーフェクトデイズ」にも出演した、俳優・吉田葵(よしだ・あおい)さん。

多くの人の思い込みを超えるように、活躍の舞台を広げている。

■人より時間はかかるけど『絶対にやれるようになる』

 小学6年生の森川小花(もりかわ・こはな 12)さんは、音楽に合わせて踊りたいと、新体操を始めて5年目だ。

森川小花さん:
「私の名前は森川小花です。12歳です。好きな教科は国語です」

ダウン症は、筋肉の緊張がよわく、ゆっくりとした動作と思われがちだが、新体操は、素早さと揃った演技が求められる。この日、練習中にバランスを崩してしまう場面があったが、チームメイトがすぐにフォローした。これまで、厳しい練習も一緒に乗り越えてきた。

小花ちゃんの友達:
「小花ちゃん大丈夫?」

森川小花さん:
「走って、飛んで、くじいた」

新体操教室の先生:
「(チームメートは)小花ちゃんが“いつもと違うな”と気にできると、他の子にも目を向けられるようになるという感じがします。小花ちゃんだけじゃなくて、キッズさんがうずくまっていたり、泣いちゃったりした時にも、声を掛けられるようになるんだと思います」

小花さんは10日後、年に一度の発表会を控えていて、チームでのボールを使った演技に向けて、自宅でも練習を続けていた。心配なのは、背中でのキャッチだ。

森川小花さん:
「揃えることが苦手で、頑張ろうかなって思っています」

小花さんの母・森川美穂さん:
「元々は“できないだろう”と思われていたと思うんですけど、意外といろんなことができるんだと思ってもらえて。(始めた頃は)みんなの動きについていけなかったけど、今は割とついていけているから、ちょっと人より時間はかかるけど、『絶対にやれるようになるんだ』とすごく思った」

■「頑張ればやれる」 苦手な“背面キャッチ” 練習し本番挑む

 そして迎えた本番。小花さんは、緊張しながら会場に入った。

小花さんは大きな音が苦手だ。出番を待つ間、会場から流れてくる大音量の音を聞いて、不安な気持ちと重なり怖くなってしまったようだ。

その後なんとか落ち着き、チームメイトと本番に臨んだ。みんなと練習を重ねたボール演技と、難しい背面キャッチも見事成功。チームメイトと息もぴったりだ。

小花さんの母・森川美穂さん:
「背面キャッチも成功したし、練習頑張ったかいがあったなと思います。“頑張ればやれる”というところをみんなに知ってもらって、誰かの原動力になればいいなと思う」

森川小花さん:
「楽しかった。何とか頑張ってできた。私の将来の夢は、お母さんみたいに保育士になりたい」