昨年放送された「明日の光をつかめ」に続き、「明日の光をつかめ2」の脚本を執筆している清水有生さん。この作品に対してどんな想いを抱き、脚本を書いているのか、たっぷりと語っていただきました。
――前作の主人公は少女が普通に暮らしていて、少年が「たんぽぽ農場」に暮らす設定でした。今回、設定を逆転させた意図とは?
「もともとパート2があるなんて思っていなんかったんですが、前作と変えるならそこだと思ったんです」
――現場でも今回は女子チームが本当に元気です。
「男の子たちがあおられている感じで(笑)。世の中を見ても、きっと女の子が元気っていうのが“今どき”だと思いますね。例えばファミレスなんかに行っても、男女のグループがいると女の子の声しか聞こえないんですよ(笑)。実際、女の子のほうが元気なので、劇中でも女の子のワイワイガヤガヤした感じっていうのを描きたかったんです。前作ではそれが出来ませんでしたから」
――登場人物の抱えているものの重さは昨年と比べていかがですか?
「それは前作と同じだと思います。ただ、真太郎のキャラクターは重みがあるし、キツいですよね。昨年は1作目ということもあり、探り探り書いた部分があるんです。『たんぽぽ農場』にいる子って、基本“良い子”ではない子も多いわけで、凶暴な一面もちゃんと描きたいと思っていたんです。昨年で言えば大樹。彼は東京で昔の悪い仲間と再会する回でどうにか彼の“ワル”な面を出せましたが、一瞬だけ垣間見えた彼の悪い部分っていうのが妙に新鮮だったんです。今回は罪を犯してしまった者の悲しみを真太郎を通してちゃんと描こうと思っています」
――男子チームといえば、孝介の置かれた環境はあまりに悲し過ぎると思いました。
「そんな孝介を高橋くんが演じてくれるからちょうど良いんですよ。演じる子が暗い子だったら、どれだけ不幸なんだろう、で終わってしまいますが、高橋くん自身が本当に明るい子で、ちょっとどこ見ているのか分からないようなところもあるんだけど(笑)、高橋くんだからこそ、孝介をあそこまで動かすことが出来ました。やっぱり演じている子を見て、キャラクターが最初考えていたものより変化してしまうことはあって、大樹もそうです。本当はもっと手の付けられない悪いヤツにするつもりだったけれど、演じる松川くんが妙に人懐っこくて。彼のパーソナルな部分が活きるキャラクターのほうが良い気がして、ご覧の通り、男気のある感じになっていたんです。ただ、本当はものすごく悪くて、ケンカも相当強いんですよ。今回、真太郎がケンカで敵わないっていうシーンを入れて、彼のそんな面を描きました」
――もともと昨年はどんな気持ちでパート1に取り組んだのでしょうか?
「少年犯罪というモチーフで作品を書くにあたり、同世代の中高生に観てもらいたくて主人公二人のラブストーリーを一つの軸として据えました。ラブストーリーに子供たちの犯罪というものを隠し隠し折り込みながら、物語を展開させていくつもりが、放送が始まると、少年犯罪の部分を、子供たちも含め視聴者の方々がしっかり受け止めてくれていることを手応えとして感じたんです。」
――会見では、パート1の放送の間、若い世代の視聴者からメールなどで、たくさんの反響が届いた、とおっしゃってましたが。
「届いたメールを読んで、事件を起こしたとか起こしていないとか関係なく、『みんな一緒だな』って思いましたね。だからこそ“たんぽぽ”のメンバーには普通の子供たちと同じような問題を抱えさせ、悩ませたほうがいいなって思ったんです」
――視聴者の方々はおっちゃんこと北山の生き様にいろいろなことを感じてくださったようですが。
「もし北山がいなかったら、このドラマのことを自分の住む世界とは別の、遠い世界の話と思った方もいるんじゃないでしょうか。北山は決して崇高な人間ではないし、どこにでもいる人物だと思うんです。強くて、優しいけれど、すぐ自信を失うし、失敗もします。“等身大”というか、彼を身近に感じてもらえることで、よりこの作品に親近感を抱いてくれるだろうし、『自分はこんなことで悩んでいるけれど、おっちゃんだって頑張っているんだから、自分も負けずに頑張ろう』と思っていただけたらうれしいですね」
――清水さんは、北山の魅力はどんなところだと思いますか?
「今回、自分の壮絶な過去をみんなの前で話す場面がありますが、それも酔っ払ってぐずぐずなときに打ち明けるんです。また蓮くんに『恋人を殺した犯人を一生憎しみ続けるんですか!』と聞いておきながら、自分自身は家族を殺した犯人を許すことが出来ていません。そんな自分を情けないと思いつつ、蓮くんに『ゴメン。俺ダメだわ』と謝ります。そんなダメなところですかね」
――北山はパート2で自分の過去をちゃんと整理できるのでしょうか?
「北山だけではありませんが、パート1で描き切れていない部分がまだまだありますからね。北山は自殺した殺人犯が自分宛てに書いた遺書の封をまだ切れていなくて、犯人に対してはどう思っているのか、さらに亡き子供への想いとはどんなものなのか。そのあたりを少しずつ描いていくつもりです」
――昨年は北山と娘、有里の心の葛藤が観ていても苦しかったです。
「有里を演じてくれた矢沢(心)さんの演技も本当に良かったですよね。脚本もあらかじめ先々まで決めて書いていたわけでないので、『本当にここでこんな笑顔を見せていいのか』といったように、いろいろ悩みながら演じてくれていたようです。パート1では“たんぽぽ”に暮らす子供が事件を起こしたとき、警察に通報したり、問題を起こした子供たちの面倒を見る父親のことが許せなかったり、でも慕ってくる子供たちが可愛かったり。先々のことは分からないからいろいろ考えつつ、迷いつつ有里を演じてくれたことで作品に深みが増してくれましたよね」
――前作を観て思ったんですが、この作品には“悪役”がいませんよね。
「昨年の主人公、遙の父親も『たんぽぽ農場』に対していろいろ妨害をしましたが、あくまで我が子を思っての行動、という範囲から逸脱させませんでした。それは今回の蓮の父親、加賀美も同様です」
――“少年犯罪”というとても重い題材を扱っていますが、書いていてのご苦労は?
「1話30分ですが、各話のプロットを考える作業は1時間の連ドラを書くときと同じ労力がかかっているし、出し惜しみはしていません。伏線の張り方も登場人物が多い分、考えに考えて書かないと破綻していまいます。正直『今週は楽したい』と思うときもありますよ(笑)」
――昨年の話で子供たちが合唱する展開となりました。視聴者の皆さんからも「素敵な場面」との声をたくさんいただきましたが、あの展開はいつ思いついたのでしょうか?
「最初から考えていました。“たんぽぽ”のみんなが一つになって何かする展開にしたい、と考えたとき合唱だったら、コンクールなどもあり、外部と接点を持つという意味においてもいいかな、と思って。“たんぽぽ”に暮らす子供たちの設定を考えたとき、みんなで力を合わせて何かするっていうのは難しい気がして、だからこそ、そんな子供たちが協力する姿を描き、チームワークの大切さを伝えたかったんです。そこで翼がピアノを弾きたいけれど弾けないというトラウマの話と絡め、合唱をさせることにしました」
――今年もメンバーが一つになって何かするんでしょうか?
「もちろん。『たんぽぽ農場』に欠けているものは何か考えて、思いついたものがあったので、それを。すごく意外なことですが、視聴者の皆さんも納得してくれるんじゃないか、と思っています」
――ところで清水さんご自身、農業を始めたそうですね。
「昨年はものすごくハードなスケジュールの中でパート1の脚本を引き受け、農業のことをどうしても深く書き込めなかったんです。以前から農業に興味があったのですが、パート2が決まり、ぜひ自分でも畑仕事をしようと思ったんです。『たんぽぽ農場』では子供たちが自分たちだけの力で野菜を育てている気になっていますが、実は子供たちが眠っているときなどに北山がいろいろと手を加えているから野菜が育っているんです。それは自分が畑を耕かしているから分かったことで、家庭菜園で野菜を育てていると、さも自分だけの力ですべてをやっている気になるんですよ。でもそうじゃなくて、畑を貸してくれている農家の方が、自分の来られないときにいろいろ気をつかってくれているから育っているんですよね。支えてくれる人がいるからこそ野菜が収穫できるんだと、自分がやって気づきました」
――最後に視聴者の皆さんにメッセージをお願いします。
「今回はおっちゃんを含め、人に見せている顔と見せていない顔があり、それぞれが悲しみを背負って生きているけれど、そこからドロップアウトせず踏ん張る姿を描いていくつもりです。『ここで踏みとどまれば頑張れる』という局面は生きていく上で誰にもでもあることだと思うんです。希望を始め、登場人物たちがギリギリのところで踏ん張り、明日の光に向かい歩く姿を、観ている皆さんが自分のこととして置き換えていただけたらうれしいですね。決して他人事ではないと思いながらご覧いただきたいです」